私、愚かな女になりそうです
映画『セーラー服と機関銃』を鑑賞しました。こちら、今だけ角川の公式YouTubeで無料公開中です。
『セーラー服と機関銃』は、赤川次郎の同名小説を原作とした1981年の日本映画。
監督は相米慎二、脚本は田中陽造が担当しました。
主演は薬師丸ひろ子で、彼女の人気を決定づけた作品でもあります。
あらすじ: 高校生の星泉は、父親の死をきっかけに、弱小ヤクザ組織「目高組」の四代目組長に就任することに。組の存続をかけて、泉は4人の子分と共に対立するヤクザと戦うことになっていく。物語は、泉が組長として成長し、様々な困難に立ち向かう姿を描く。
本作、今では考えられない攻めた演出がたくさんあって面白いんですよ。
今の感覚だと分かりにくいシーンやセリフも合わせて紹介するね!
相米慎二の攻めたスタイル
本作では、長回しのロングショット、ワンシーンワンカットが多用されます。
それだけでもかなり今の映画とは雰囲気が違うんですが、カメラの撮り方もとっても独特なんですよね。
マンションのベランダのさらに向こうから撮るようなショットや、オープニングの超ロングショット(しかも薬師丸ひろ子はブリッジしてる)、走るバイクを前から撮るような、印象的なショットが多くて、それだけでも観てて心が躍ります。
薬師丸ひろ子を使っているというのに、ロングショットなもんだから、誰だか分かんないシーンがたくさんあるんですよ。当時のファンは「もっと顔見せてくれよ!」ってなもんだったでしょうね。
また、関係ない音というか、生活音のようなものがたくさん聞こえてくる点も印象的。
カラスやセミや、風鈴、踏切、TVの音など、一見ストーリーとは関係ない音が入るんですが、なんかこれ、日本の都会の夏を強く想起させるんです。日本人のノスタルジーを刺激するような、そんな雰囲気でした。
人生の片側しか知らなかった薬師丸ひろ子
本作では、当時17才だった薬師丸ひろ子が様々なことに挑戦させられています。
これもまた、今のアイドルでは到底考えられないことですね。
まず、この映画は少女の性的成長というのが、一つのテーマになっています。
薬師丸ひろ子は登場シーンでブリッジをしながら「カスバの女」という歌を口ずさむという衝撃的な登場シーンを見せます。(添付の動画の3分くらいからです)
涙じゃないのよ 浮気な雨に ちょっぴりこの頬濡らしただけさ
この曲は、アルジェリアのカスバという酒場に売られてしまった女性の歌なんですね。
また、父親からの手紙にはこんな風に書かれていました。
しっかりしたいいこだが、人生の片側しか知らない
そして、この映画は
「私、愚かな女になりそうです」
という彼女のセリフで幕を降ろします。
ついでに言うと、エンディングでかかる「セーラー服と機関銃」は、
愛した男たちを 想い出に替えて
いつの日にか 僕のことを想い出すがいい
ただ心の 片隅にでも 小さくメモして
という内容です。
なので、この映画は、カスバの女の歌詞をよく知らない活発なだけの少女が、
自身を愚かな女になってしまいそうだと思ってしまうまでの性的成長を描いているのではないかと思うんです。
これ、なかなか強烈ですよね。令和のアイドルにこんなことさせられます?
メタファーっぽく描かれているところもあれば、かなり直接的に描かれているところもあります。
・舎弟(大人の男)の腕に抱かれる
・松の木組の組長が半裸で話し、杭打ちを映す(これはメタファーですね)
・佐久間と恵の情事を覗く
・若い組員の手当て中に抱きつかれる
・死体にキスする
そして、ラストではセーラー服に似つかわしくない、赤いハイヒールを履いているんですよね。
少女が大人の女性への憧れを持つようになった。こういった象徴なのでしょう。
あと、体当たりな演技もかなりさせられてます。
・暴走族のバイクの後ろに乗せられる
・重機で吊られる
・磔にされる
などなど。絶対NGでますよね…。
演じた薬師丸ひろ子も、演じさせた相米慎二もすごいなあと思います。
ヤクザとビジネスの関係
この映画には「ハマグチ物産」という大きなビルの会社が出てきます。
これ、今一つよく分かんなかったんですよね。なので、調べてみました。
主人公の星泉は、目高組の新しい組長としてヤクザの世界に足を踏み入れます。
ハマグチ物産は、目高組が関わる上部組織の一つで、ヤクザとビジネスの世界が交錯する場所です。
泉が目高組の組長としての立場を確立するために、ハマグチ物産の社長である浜口に挨拶に行くシーンがあります。
このシーンは、ヤクザの組織が単なる犯罪集団ではなく、ビジネスや政治とも深く関わっていることを示しています。
映画の中で、ヤクザと企業の関係が描かれることで、現実の社会における複雑な力関係や裏社会の影響力が強調されているというわけでなんですね~。
オタクひょっとしてクルージング?
終盤で、薬師丸ひろ子が、「オタク、ひょっとしてクルージング?」と仲間の一人にいうシーンがあります。
これ、『CRUISING』という映画に由来するんです。
CRUISING は、もともとゲイの世界で、男を漁る行為の意味だそうです。それと、潜入捜査のダブルミーニングになっているんですね。
1980年に公開された『CRUISING』というウィリアム・フリードキン監督アル・パチーノ主演映画によって、日本でもこの言葉が知られるようになりました。
アンダーグラウンドのゲイカルチャーを背景に描いたストーリー。
1973年から79年にゲイの男性ばかりが惨殺される殺人事件が実際にあり、その容疑者となった人物が『エクソシスト』にも出演していたんですね。
フリードキンが彼との面会や取材などの体験を経て脚本を執筆という経緯があるんです。
ハリウッド映画としては初めて男同士のSMセックスを真正面に描いた作品だったので、同性愛差別を助長するとして製作発表時から公開後まで抗議活動を受けるなど大変センセーショナルな話題となった作品です。
日本では、この映画のブレイクを機にCRUISINGという言葉がそのままゲイの人を差す言葉に置き換わったみたいですね。
感想
とにかく、独特なカメラがとっても楽しい作品です。
どっから撮ってるんだ?どうやって撮ったんだ?
そんなシーンの連続で、観ていて飽きません。
あと、目高組の組員がカワイイです。
事務所を改装して、薬師丸ひろ子にコーヒー振る舞うシーンなんか最高。
でもそんな組員たちが、次々に死んでいくのも、今の映画にはなかなかないストーリーで、切ない魅力がありますね。
当時まだ若手だった、名俳優がたくさん出ていたのも印象的。
泉のクラスメイト役として、柳沢慎吾、光石研、酒井敏也が出ていたり、刑事役として柄本明が出ていたり。
柄本明なんて、終盤になるまで私気が付きませんでした。
昭和感満載のセリフがむず痒くなっちゃうシーンもありますが、それも含めて大変楽しい作品でした。
これが無料公開はすごい!太っ腹!
今日の映学
最後までお読みいただきありがとうございます!
映画『セーラー服と機関銃』について解説しました。
薬師丸ひろ子の体当たり演技と、それをさせた監督から、ガッツを強く感じます。
どうやって撮ったの?っていう独特なカメラワークも見どころだよ!
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