今までも幸せでした
『お坊さまと鉄砲』をテアトルで鑑賞しました。
『ブータン山の教室』のパオ・チョニン・ドルジ監督・脚本の最新作。前作がとっても好きだった私にとっては見逃せない作品だったのです。
『ブータン山の教室』は、すっごくいい映画だったもんね。幸せって何なんだろうって考えさせられたよ。
本作も、
「幸せって何なんだろうか…」
「今の自分の暮らしって、当たり前で普通だと思ってたけど…」
そして、無知と無垢の違い、
これらについて深く考えさせられる作品でした。
2006年に初めての選挙が行われたブータン。その背景にはどのうような出来事があったのかをコミカルかつ、あたたかで力強いメッセージを添えて描いた作品。
今回の記事では、映画『お坊さまと鉄砲』の感想をお伝えしようと思います。結末やストーリーの核心に迫る部分については言及せずにお伝えするので、鑑賞前の方も、ぜひ最後までお読みください。
あらすじ:2006年、国王陛下が退位の意向を発表し、ブータンは民主主義体制へと移行する。総選挙で新しいリーダーを選ぶ必要があるが、ブータンでは選挙を実施したことがない。国民の理解促進を図るため、政府は選挙委員をブータン全土に派遣し、４日後に“模擬選挙”の実施を決定する。周囲を山に囲まれたウラ村。山で瞑想修行中のラマのもとを訪れた僧侶のタシは、模擬選挙の報を聞いたラマから「次の満月までに銃を二丁手に入れてほしい」と頼まれる。戸惑うタシに、ラマは「物事を正さねばならん」と話す。 公式サイトより引用
今までも幸せだった
はじめに押さえておきたいのが、この映画は本物の銃という点以外はほとんどが実話だということ。
出演している人も本物の村人や僧侶なんですって。
『ブータン山の教室』でもそうだったんですよね。だから、この映画には、温かみとか真実味を感じます。
で、今回のテーマは2006年に初の選挙が行われたというブータン。
当時の国民たちは、あまり選挙に興味がない様子で、そもそも選挙って何？何のためにするの？って感じなんですよ。
だから役人が時間をかけて選挙の練習とか、説明とかするんです。民主的な国にしたいという人は青。産業に力を入れて発展させたい人は赤。伝統と文化を重んじるのがいいという人は黄色。って感じで。色で分けるってのがまた、可愛いですよね。
で、結果、国王陛下を象徴する色である黄色が圧勝してしまうんです。これも本当なんですってね。
役人や国際社会に対して感度が高い人は、「これで文明社会の仲間入りだ！」「自分たちで国を作っていくんだ！」と張り切っているんですが、なかなか上手くいかないと。
なんだか、初めの選挙って、こんな風なんだろうなってのを知ってほっこりする反面、何だかぞわっとするものがあったんですよね。
そのぞわっと感というのが、登場人物のある会話なんです。
「選挙をすると幸せな国になるわよ」
「今までも、幸せでした」
という。
「今までも、幸せでした」と言った女性の家庭は、選挙のせいでギクシャクしているんですよね。夫が少数派に投票するということが要因で。
そんな彼女が言うんです。「今までも、幸せでした」って。
なんだか、このシーンを受けて私は、民主主義って、自分たちで考えないといけないんだなって。政治に参加する権利がある代わりに。
でももう戻ることはないだろうから。
生まれた時から、当然のように民主主義の国で。二十歳になったら選挙権があって。
それっていろいろな人の苦労の上にあるんだよなって。
有難みと真剣さをもって向き合いたい。
でも、真剣になって、投票に意気込むからといって、やってはいけないこと。それは争い。
争いになったら意味がない。
それをこの映画を通して学ぶことができました。ラストでまたホッコリしながらギクッとさせられます。
そしてもう一つ、この映画から学んだこと。監督自身がこのように語っています。
「ブータン人の無垢な部分は、重要な価値であり本作のテーマでもあります。残念なことに、近代的で教育水準の高い国へと変化するにつれ、私たちのこの美しい価値は失われ、捨て去られつつあります。現代人には“無垢”と“無知”の違いを区別できないのでしょう」
https://www.cinemart.co.jp/article/news/20241206009763.html
これはねぇ…。めちゃくちゃ実感してしまいました。無垢と無知の違い。もはや、子どもですら無垢な時代ってほとんどないような。気づくことすらできなかったことを、決してお説教っぽくなく、むしろ楽しく可愛く教えてくれるこの映画は、傑作だと思います。
最後までお読みいただきありがとうございます！
ホッコリしつつも、とっても大切な気づきをくれる素晴らしい作品でした。映画館で観られそうな人はぜひ！『ブータン山の教室』はなかなか配信にこなかったので…。
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