あらゆることに障害物は無い いかに乗り越えるか
映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』をNetflixで鑑賞しました。
本作は2021年に公開され、ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞。第94回アカデミー賞では作品賞や監督賞を含む12部門にノミネートされました。
この映画、とっても面白かったんだけど、ラストの解釈が微妙なんだよね。
そうだね。でも、原作ではラストを含めて、様々なことがハッキリと描かれているから、今回の記事ではラストや物語のディテールを詳しく解説していこう。
作品概要、あらすじ、受賞歴など
『パワー・オブ・ザ・ドッグ』は、1920年代のアメリカ・モンタナ州を舞台にした物語です。監督はジェーン・カンピオンで、彼女は『ピアノ・レッスン』でも知られる才能ある映画監督です。カンピオンはニュージーランドのウェリントンで生まれ、オーストラリアのビクトリア大学で人類学を専攻し、シドニー芸術大学で絵画を学びました。この作品は、彼女の知識と感性が存分に発揮された作品となっています。
物語は、フィル・バーバンクというカリスマ的な牧場主と、彼の弟ジョージ、そしてジョージの新妻ローズとその息子ピーターの関係を中心に展開します。フィルは粗野で冷酷な性格であり、弟の結婚に対しても敵意を抱いています。しかし、次第にピーターとの関係が変化していく様子が描かれます。物語の残り1時間くらいで、フィルがゲイであることが分かり、ブロンコ・ヘンリーが憧れ以上の存在であったことが明らかになります。
本作のストーリーは、トマス・サヴェージの原作小説が基になっています。
タイトルの意味
『パワー・オブ・ザ・ドッグ』というタイトルは、聖書の詩篇22章20節に由来します。この詩篇はダビデが困難な時に神に助けを求める祈りの詩であり、「剣から私の命を、犬の力から私の貴い魂を救ってください」という意味です。この節は、極限の困難や危機の中で、神に対して助けを求める強い願いを表しています。
詩篇22章20節における「犬の力」は、象徴的な表現です。古代の文脈では、犬はしばしば野生で危険な存在として描かれており、敵や迫害者を象徴することが多かったです。したがって、ここでの「犬の力」は敵や危険な状況を象徴しており、詩人が神に対して救いを求める際の危機的な状況を描写しています。
これは比喩的な表現で、実際の犬を指しているわけではなく、困難や敵意に満ちた状況を指していると理解できます。詩篇全体を通じて、こうした象徴的な言葉が頻繁に使用され、読者に対して深い感情と状況を伝えています。
原作を基にラストやストーリーを解説
原作は著者トマス・サヴェージの実体験が基に書かれています。自身を少年ピーターに置き換えて描いています。
監督自身はゲイでしたが、当時は結婚が当たり前で彼も結婚して子どもをもうけました。
ジェーン・カンピオン監督も5〜10歳の時に、家にいた乳母に身体的、精神的虐待を受けていた経験があります。彼女はピーターの抑圧された思いに共感しつつ、フィルのようなストレスのある人物像にも向き合ってこの作品を作り上げました。
① フィルはゲイだった
原作では、フィルがゲイであることが明確に描かれています。フィルの過去の友人であり、憧れの存在であったブロンコ・ヘンリーとの関係が特に強調されています。フィルはブロンコ・ヘンリーに対して深い愛情と尊敬の念を抱いており、その思い出が彼の行動や感情に大きな影響を与えています。
② フィルとピーターが親密になった理由
フィルとピーターの関係は非常に複雑で、物語の核心を成しています。フィルは最初、ピーターを軽蔑し、いじめるような態度を取りますが、次第にピーターの知性や冷静さに興味を持つようになります。特に、ピーターがフィルの過去の友人であり、憧れの存在であったブロンコ・ヘンリーについての話を聞き出す場面が、二人の関係を深める重要な要素となります。
フィルはピーターに対して次第に心を開き、彼にブロンコ・ヘンリーとの思い出や、自身の内面について語るようになります。この過程で、フィルはピーターに対して保護者のような感情を抱くようになり、二人の間に親密な絆が生まれます。
③ ラストについて
原作のラストシーンでは、ピーターがフィルを意図的に殺したことが示唆されています。ピーターはフィルに対して冷静かつ計画的に行動し、最終的にフィルを毒殺することで物語が終わります。この結末は、ピーターの冷酷さと計算高さを強調しています。
映画では故意なのか偶然なのかハッキリ描かれないラストでしたが原作ではしっかり書かれているんですね。
撮影裏話
『パワー・オブ・ザ・ドッグ』の撮影秘話についていくつか興味深いエピソードがあります。
- 実際のロケ地: 映画の舞台はアメリカ・モンタナ州ですが、実際の撮影はニュージーランドで行われました。ジェーン・カンピオン監督はニュージーランド出身であり、彼女の故郷であるニュージーランドの風景が映画の美しい背景を提供しました。
- 役作りのための準備: ベネディクト・カンバーバッチはフィル役を演じるために、実際に牧場での生活を体験しました。彼は牛の世話をしたり、ロープを使った技術を学んだりして、役に深く入り込むための準備をしました。
- キャストの関係性: カンバーバッチとコディ・スミット=マクフィー(ピーター役)は、撮影中に意図的に距離を置くことで、映画の中での緊張感を高めました。これにより、二人のキャラクターの関係性がよりリアルに感じられるようになりました。
- 音楽の力: 映画の音楽はジョニー・グリーンウッドが担当しました。彼はレディオヘッドのメンバーとしても知られており、映画の緊張感や感情を引き立てるために独特な音楽を作り上げました。
感想
2021年に大変話題となった本作。ようやく観ることができました。
いやー、これは面白いですね。
ジェーン・カンピオン監督の新作というだけですごいのに、カンバーバッチが主演と。
『ピアノ・レッスン』もそうでしたが、この人の映画は、画が圧倒的に美しい。それでいて、ストーリーも普通のドラマとは違う。複雑な人間関係を描いているんですよ。
『ピアノ・レッスン』は階級や立場が複雑だったとはいえ男女の愛でしたが、今回はより一層複雑。弟に新しくできた妻の連れ子。しかも、どうやら二人とも同性愛者っぽい。もしや二人に肉体関係があるのか…?そんな不穏さが終始あるんですよね。
カンバーバッチの演技も素晴らしい。怒りの演技が主なんですが、時折見せるそれ以外、喜哀楽の表現が見事ですね。あんなに小難しそうな人物、なかなか表現できるものではないと思いました。
あと、超売れっ子のトーマシン・マッケンジーがあんまり活躍しない役で出ているところも興味深い。当時20歳か21歳で、15歳で家政婦として働きに出た少女を演じているんです。あの可愛らしい容姿だから、ピーターと恋仲になるのか?と思いきや、まるでそんな様子はない。そのことによって、ピーターの性的趣向を表しているんだろうなと思います。
ジェーン・カンピオン監督、流石です。監督が著者やフィルというキャラクター、そして自身のトラウマと向き合ったからこそ、この絶妙な作品に仕上がったのでしょう!
今日の映学
最後までお読みいただきありがとうございます!
映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』について解説しました。
ジェーン・カンピオン監督や、トマス・サヴェージの原作について知るとよりよく映画が分かりますね。
ラストがハッキリわかってスッキリしたよ!
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