謝れないのよね。ヘタレだから。
映画『アノーラ』を鑑賞しました。
私が観にいったのは3月1日金曜日で、その時はカンヌ国際映画祭の最高賞「パルムドール」を受賞した作品ということで、楽しみにして観たんです。
しかし何とその後何とアカデミー賞作品賞(オスカー)も獲っちゃったんですよ。
これって実は大変な快挙なんですね。

今回の記事では、そのあたりに触れつつ、本作の見どころやより楽しむための解説をお届けします。

ネタバレを含む箇所に関しては、事前にアナウンスしますので、未鑑賞の人もご安心ください。
パルムドール&オスカーは歴代3作品だけ!
まず、本作を語る前に申し上げておきたいのが、カンヌ国際映画祭の最高賞であるパルムドールと、オスカーを獲った作品というのは、本作を含めて歴代何と3作品だけなんです。
『アノーラ』の前は『パラサイト半地下の家族』(2020)で、その前は『マーティ』(1955)という作品が受賞しただけなんです。
これはものすごいことだと思いますよ。
『パラサイト』も結構攻めた内容でしたが、『アノーラ』もめちゃくちゃ攻めてます。18歳以上しか観られませんしね。性行為やヌードのシーンがめちゃくちゃあるし、ドラッグを使うシーンもあるからでしょうか。
でも、この映画はそういうシーンを見せなくちゃ、始まらないし終わらない。そこが本質といいましょうか…。
なんにせよ、こういった過激さを持つ映画がオスカーを獲ることってなかなか無いと思うので、未鑑賞の人は要チェックですよ。
NYでストリップダンサーをしながら暮らす“アニー”ことアノーラは、職場のクラブでロシア人の御曹司、イヴァンと出会う。彼がロシアに帰るまでの7日間、1万5千ドルで“契約彼女”になったアニー。パーティーにショッピング、贅沢三昧の日々を過ごした二人は休暇の締めくくりにラスベガスの教会で衝動的に結婚!幸せ絶頂の二人だったが、息子が娼婦と結婚したと噂を聞いたロシアの両親は猛反対。結婚を阻止すべく、屈強な男たちを息子の邸宅へと送り込む。ほどなくして、イヴァンの両親がロシアから到着。空から舞い降りてきた厳しい現実を前に、アニーの物語の第二章が幕を開ける
。https://www.anora.jp/
あと、ぶっちゃけオスカーに関して言えば、日本のアカデミー賞と同じで、色々利権関係があって、公平公正かどうかは少し疑わしい部分を感じなくはない。その反面、カンヌ国際映画祭はその影響は少なさそう。毎年クレイジーな作品や過激な作品、メッセージ性の強い作品が選ばれてますから。
なので、どちらも受賞している本作は、結構信頼できる面白さなのではないかと思います。
マイキー・マディソンの演技に注目
主演のアニーを演じたマイキー・マディソン。本作でアカデミー賞主演女優賞を獲得しています。

この演技、素晴らしいですよ。彼女はポルノダンサーやエスコート嬢をして働いている女性を演じているんですが、もう、役そのものになりきっているんですよね。完全に憑依している感じ。
溢れ出るエネルギーは、演技とは思えないほど。必見です。
私が特に素晴らしいなと感じたのは、二人の男に縛られそうになり、抵抗するシーン。あんな演技ができる俳優が、どれほどいるかな。と感動すら覚えました。ポールダンスもめっちゃうまいです。

ここから先はネタバレを含んだ内容になりますので、ご注意ください。
Xの投稿では、『アノーラ』の感想について「ありふれたストーリーだ」とか「何かもう一つほしかった」みたいなものをチラホラ見かけます。そういった感想をもった方はぜひここから先をよく読んでいただきたいなと思います。
どれだけの人が
本作は全編コメディタッチで描かれるんですが、私は真剣にとらえてしまう部分も多々ありました。
ロシアの御曹司と結婚したアニー。それに対し、彼らの両親やお目付け役は猛反対します。
結婚を無効にするために動き出すんですね。
これ、観ていて「酷いやつらだな」と多くの人が感じたと思うんですけど、はたして、自分事に落とし込んだ時、受け入れられますか?
自分に息子がいたとして、その相手が夜のお仕事。しかも露出したり、性行為のサービスを提供している人だということが分かってしまった場合。さらにいうと、自分は金持ちの名家であると。
この辺りは何だか、コメディの中に、こちらを試すようなメッセージがこもっているように感じましたね。人を対等にみられる度量みたいなものを。
はたして世の中のどれくらいの人が、アニーを実子の妻と認めることができるのか。なかなか深いテーマだと思います。
彼らは知らない
もう一つ私が本作を観て感じたのが、金持ちとアニー、それぞれができないコミュニケーション。
金持ちの親子たちは、アニーに対しあまりにも不義理を働いたわけですが、彼らは最後まで謝ることをしないんですね。
これまで人の上にたったことしかないから、自分より下の人間に対して謝ることができないんです。むしろ、誤るべきタイミングで、誤ることが出来ないと言ったほうが正しいのかもしれません。
こんな人間にはなりたくないもんだと思ったし、劇中ユーリー・ボリソフ演じるイゴールもそんなことを言ってました。
しかし一方で、アニーもまた出来ないことがあるんです。
それは、感謝を伝えること。
イゴールは、はじめこそ乱暴でしたが、アニーについて知ったり、行動を同じくする中で、次第にアニーに対して優しさとか親切を見せるようになりましたよね。
そして、最後には超高額な指輪を内緒で返してくれました。
それに対してアニーがとった行動。それは、性的な奉仕だったんですね。
彼女もまた、誠実な言葉を使って感謝を伝えることができないんです。きっと、彼女がこれまで歩んできた人生や、若さに溢れ、魅力的な彼女にとっては、それが最大の感謝の伝え方だと思ってしまっているんでしょう。
キレイな言葉を使うことに慣れてないし、本音を語ることもどこかで避けてしまう。身体で返すことが最適解だと思っている。でも、イゴールにとってはそうじゃなかった。
だから、私はあのラストシーン、かなり泣けるものがあったんですよね。
感想
本作、ポスターだけ観るとキラキラ系の映画とか、『セックスアンドザシティ』みたいな話なのかと思っちゃうんですけど、全然そんなんじゃないです。
まず、冒頭でショックを受けます。
女性のお尻のアップ、続いて胸のアップですから。
2021年パルムドールの『TITANE』に迫るクレイジーっぷりというか、インパクトを冒頭ですでに受けます。
でもストーリーだけみると、『TITANE』や『パラサイト』に加えるとまとも。その分エロとか人間臭さの方に振りきっている感じですね。だから、人間讃歌という謳い文句があるんでしょう。
基本的にコメディっぽいストーリーもいいんです。相対する者同士がバカ息子見つけるために協力するロードムービーに変わるってのが滑稽で面白い。
そのあたりのストーリーとか、酒をやたら飲むあたり、あとベガスに行って結婚する件が、『ハングオーバー』によく似てるんですよね。多分、あの結婚式場って、同じとこなんじゃないだろうか。
オマージュであることは間違いない。
また、本作の売り文句である「シンデレラストーリーのその先」というのも面白いですよね。ディズニープリセンスとか少女漫画のその先をリアルに想像してみた作品って、これまでなかったんじゃないでしょうか。その皮肉っぷりもすごくいい。
そういったコメディとか、ラブロマンスの要素を盛り込みながら、ただ、現実だとこんなことになるんだよっていう風刺。この塩梅が絶妙なんですよね。笑っていいのかダメなのか。どこまで真剣に向き合えばいいのか。ドキリとしてしまう感じ。
名作です。
今日の映学
最後までお読みいただきありがとうございます。
『アノーラ』について解説しました。

人間讃歌という謳い文句はぶっちゃけしっくりきません。でも、パルムドールっぽい魅力を持ちながら、オスカー級の破壊力をもつ、非常に面白い作品であることは間違いありません。私にとっても、2025年ベスト級の作品になることは確実です。

まだしばらく映画館で観られると思うから、ぜひ!
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