アメリカ社会における、”男” ”核戦争” ”ナチスの呪い”
これらを伝えるには、コメディしかない。
スタンリー・キューブリックの名作「博士の異常な愛情/または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」を鑑賞しました。
キューブリック最後の白黒作品であり、同じジャンルの映画は二度撮らないという氏のスタイルにおける、唯一のコメディ作品でもあります。
すごいテーマをコメディにしたんだねぇ。
今回の記事では、「博士の異常な愛情」の見どころと作品をより深く味わうための解説をお届けします!
なぜこれをコメディにしたのか、また、そこに込められた監督の想いもしっかり解説するよ!
STORY
時は冷戦の真っ只中。アメリカの戦略空軍基地司令官リッパー将軍が突然、ソ連への水爆攻撃を命令する。ところがソ連が保有している核の自爆装置は水爆攻撃を受けると10ヶ月以内に全世界を破滅させてしまうと判明。両国首脳陣は最悪の事態を回避すべく必死の努力を続けるが、水爆はついに投下されてしまう・・・。
ソニーピクチャーズ公式サイトより引用
あらすじだけみると、恐ろしい戦争ドラマな雰囲気ですね。
しかし、今作はコメディ作品となっております。
原作は恐怖小説
原作の「赤い警報」は、核戦争の恐怖を描いたシリアス作品です。
しかし、キューブリック監督はこの映画を作るにあたって、コメディにしたほうがよいだろうと判断しました。
日本では、やや考え難いですが、アメリカやヨーロッパでは、こういった重いテーマは「もう笑うしかない!」みたいな考え方があるようです。
チャップリンの「独裁者」が代表的ですね。
邦題について
邦題は「博士の異常な愛情」ですが、原題は「Dr. Strangelove」です。
キューブリック監督はタイトルの変更を固く禁じたそうですが、母国語の翻訳だけは許可しました。
それを逆手にとって「ストレンジラブ博士」ではなく「博士の(Dr. )異常な(Strange)愛情(love)」と決定したのです。
これは珍しく非常にいい邦題ですね。
1人三役を演じたピーター・セラーズ
ピーター・セラーズは、今作で何と三役を演じています。
キューブリック監督は当初、コング少佐も任せようとしてたそうです笑
”アメリカ大統領” ”ドイツから帰化した科学者” ”イギリス空軍大佐”
という三役を演じています。
それぞれの強烈な個性と、訛りを演じ分ける様は圧巻です。
名前が面白い
「博士の異常な愛情」に登場する人物は変な名前が多いです。
ドクターストレンジラブがもうすでに変な名前ですが、他にも、
”ジャック・D・リッパー将軍”
”マンドレイク大佐”
”コング少佐”
などなど…。
多くの名前に共通するのが、エロティックな意味を持つ名前であるということです。
”アレクセイ・デ・サデスキー”というソ連大使役名は、フランスの過激な性描写で有名な小説家マルキ・ド・サドから取っているそうです。
バック・タージドソン将軍
ジョージ・C・スコット演じる、バック・タージドソン将軍。
これまた性的なネーミングです…。
ゴリゴリのタカ派(過激派)なのですが、いよいよとなると、徐々に青ざめていくのが面白いです。
熱弁中に勢いあまって後ろに転ぶも立ち上がり、なおも熱弁するシーンはめちゃくちゃ笑えます。(これはヒトラーが演説中に興奮したときの癖と同じだそうです)
このバック・タージドソン将軍にはモデルがいます。
モデルその1 ”ハーマン・カーン”
アメリカ合衆国の未来学者、軍事理論家で、かなり過激な考えを論じていた人物。
核戦争によって、多少の犠牲があったとしても最後にアメリカ人が生き残ればいい。という思想です…。
ガンダムシリーズのハマーン・カーンというキャラクターの元ネタでもあります。
モデルその2 ”カーチス・ルメイ”
キューバ危機の際に水爆攻撃を実行しようとした人物で、ベトナム戦争と東京大空襲にも大きく関与しています。
アメリカの政治や軍事の内部にこそ、最もヤバいやつがいるということを象徴するキャラクターです。
ストレンジラブ博士
ストレンジラブ博士にもモデルがいます。
エドワード・テラーという人物です。
モデル ”エドワード・テラー”
エドワード・テラーは、通称”水爆の父”。その名の通り、水素爆弾を発明した人物です。
当然、マンハッタン計画にも関わった人物なので、オッペンハイマーと並んで紹介されることが多いです。
”水爆の父”たる所以
しかし、自らの発明に苦しんだオッペンハイマーと違って、水爆を自身の赤ちゃんのように愛しく思っていたという逸話があります…。
”ストレンジラブ” ”異常な愛情” というネーミングは、ここからきているのでしょう。
核攻撃の理由はなんと…
「博士の異常な愛情」では、ジャック・D・リッパー将軍の越権行為により、アメリカからソ連への核攻撃が実行されようとします。
なぜ、ジャック・D・リッパー将軍は、地球滅亡の恐れまである核攻撃を行う決断を下したのか。
それは、なんと勃起不全が理由なのです…!詳しくは次の章で。
ソ連の陰謀論
「博士の異常な愛情」では1964年当時囁かれていた、ソ連の陰謀論が2つ登場します。
水に含まれるフッ素が原因で…?
勃起不全の理由はというと、ソ連がアメリカの水の中に、フッ素を混ぜていることが原因だとしています。
この陰謀論は、当時本当に信じている人がいたそうです。
実際には虫歯予防のために入れられていたそうな。
皆殺し兵器
人が死んだあとも動き続け、報復する”皆殺し兵器”が存在すると劇中で語られています。
これもまた1964年当時噂されていたことです。
しかし、1985年に、この”皆殺し兵器”は実際に完成されました。
”ペリメータ”という兵器です。恐ろしいですね。
スケベな男と核戦争を揶揄した映画
ここまでで何となくご理解いただけかと思いますが、「博士の異常な愛情」は男性のセックス的な価値へのこだわりと核戦争を結び付けて揶揄した作品なのです。
ラストにすべてが集約されていますね。
ジョン・ウェインを意識したカウボーイ風のキャラクターがミサイルに股がって世界を破滅させたり、
シェルターにハーレムを作ってしまえばいいと発言したり、
それに”イイネ!”と賛同したり…。
チ○コ主義なアメリカと核戦争を結びつけたコメディ傑作な訳でございます。
2001年宇宙の旅へのつながり
今作と、自作「2001年宇宙の旅」は繋がりがあることをご存じでしょうか。
実は、「2001年宇宙の旅」は、核戦争で地球が滅ぶ寸前を描いています。
それを宇宙人たちは愚かしく思っていると。
そして、ヒトを越えた存在となったボーマン船長が核戦争を抑止するといったストーリーが当時の筋書きにはあったそうです。
ナチスの呪い
「博士の異常な愛情」では、最後の最後にドイツ人学者のストレンジラブ博士が、ナチスの敬礼をしてしまうシーンがコミカルに描かれます。
また、世界が滅んでも、優秀な男と女を残してまた繫栄させればいいといった発言も。
これが示唆しているのは、アメリカとソ連がナチスを滅ぼしても、ナチスは心のなかに潜んでいるということです。
優生思想そのものですもんね…。
今日の映学
最後までお読みいただきありがとうございます!
「博士の異常な愛情」の情報をたっぷりお届けしました!
コメディながら、メッセージむんむんな傑作です。
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