映画「オオカミの家」を鑑賞しました。
等身大のストップモーションという斬新さに加え、その造形があまりにも個性的であるため、強烈な印象を受けます。
もし、何も知らずにフラッと立ち寄ってこの映画を映画館で観てしまったら、トラウマになりそうなほどです。
作品の背景についても紹介していくよ!
作品概要
クリストバル・レオンとホアキン・コシーニャの二人組による初の長編映画『オオカミの家』は、ピノチェト軍事政権下のチリに実在したコミューン【コロニア・ディグニダ】にインスパイアされた “ホラー・フェアリーテイル” アニメーション。チリ南部のある施設から逃走し、森の中の一軒家で二匹の子ブタと出会った娘マリアの身に起きる悪夢のような出来事を描いている。
レオン&コシーニャが監督のほかに脚本、美術、撮影、アニメーションなどを務めた。撮影場所は、チリ国立美術館やサンティアゴ現代美術館のほか、オランダ、ドイツ、メキシコ、アルゼンチンにある10カ所以上の美術館やギャラリー。実寸大の部屋のセットを組み、ミニチュアではない等身大の人形や絵画をミックスして制作、制作過程や制作途中の映像をエキシビションの一環として観客に公開するという手法で映画を完成させた。企画段階を含めると完成までに5年の歳月を費やしており、ワールドプレミアとなった第68回ベルリン国際映画祭ではカリガリ映画賞を、第42回アヌシー国際アニメーション映画祭では審査員賞を受賞するなど世界各国で数々の賞を受賞している。
全編カメラが止まることなく、最後までワンシーン・ワンカットで空間が変容し続ける“異形”のストップモーション・アニメーション。その特異な才能の素晴らしさは、『ミッドサマー』で知られるアリ・アスターが一晩に何度も鑑賞し、自ら二人にコンタクトをとったというエピソードからも伝わるだろう。彼らと意気投合したアスターは、今回同時上映となる短編『骨』の製作総指揮に名乗りを上げ、さらに自身の最新作『Beau is Afraid』内の12分にも及ぶというアニメ・パートも彼らに依頼した。ほかに、トム・ヨークの新バンドThe SmileやPJ ハーヴェイのミュージックビデオを監督したことも話題に。2021年には、アメリカのゲーム・エンタメ情報サイト「IGN」の歴代アニメーション映画ベスト10に選出。同年Varietyの「観るべき10人のアニメーター」にも選出された。
映画公式サイトより引用
元ナチス党員で、アドルフ・ヒトラーを崇拝し、子どもに対する性的虐待でドイツを追われたキリスト教バプテスト派の指導者、カルト教団のパウル・シェーファーらが設立した、コロニア・ディグニダから影響を受けて作った映画です。
コロニア・ディグニダについては後ほど解説していきます。
STORY
美しい山々に囲まれたチリ南部のドイツ人集落。“助け合って幸せに”をモットーとするその集落に、動物が大好きなマリアという美しい娘が暮らしていた。ある日、ブタを逃がしてしまったマリアは、きびしい罰に耐えられず集落から脱走してしまう。逃げ込んだ一軒家で出会った2匹の子ブタに「ペドロ」「アナ」と名付け、世話をすることにしたマリア。だが、安心したのも束の間、森の奥から彼女を探すオオカミの声が聞こえはじめる。 怯えるマリアに呼応するように、子ブタは恐ろしい姿に形を変え、家は悪夢のような禍々しい世界と化していく……。
映画公式サイトより引用
オオカミの声が外から聞こえる、その中にはブタがいるというあたり、童話の「三匹の子ブタ」に似ているね。
悪夢のような世界観
本作は、全編ストップモーションで、ワンシーン・ワンカットで撮影されています。
これはもう、大変芸術的です。
彼らにしかできない技術とセンスが詰まっているように感じます。
立体的な造形を作って、そこに色を重ねたり、形を変えたりして、また崩して次のシーンへ。
というのを繰り返すので、登場人物の顔が不気味に歪むのをじっくりと観察できるわけです。
また、壁面に大きな顔を描く演出もたくさん観られました。
海外の路上にある立体アートみたいな仕掛けで魅せてくれます。
ものすごい時間と労力がかかったであろうことは、ご覧いただければわかります。
でも、不気味さが勝ちますよ笑
コロニア・ディグニダ
ストーリー自体も不思議でよく分からない本作ですが、コロニア・ディグニダについてインプットしておくと少し立体的にストーリーを楽しめます。
1960年代初頭、ナチスの残党がチリに設立したコロニア・ディグニダは労働・秩序・清廉さといった“規範”を基にした一見美しい共同体のようでした。
しかし、その裏では独裁者パウル・シェーファーによって厳格に管理・支配されており、洗脳、武器の密輸、政治的反対派の拷問、殺人、児童虐待…など、非道がまかり通るコロニーだったのです。
まず、親と子など、家族を引き離し、コロニー全体を一つの家族という思想を受け付けます。
年齢と性別によりグループを分けて暮らさせたのです。
そして、それをうまく利用し、パウル・シェーファーは日に何度も男子に対して性的虐待を行っていたのでした。
シェーファーに性的に愛された子には特権が与えられ、要望にこちらから進んで応えなかった子には電気ショックなどの拷問のほか、周囲の者が食べる中で食事も与えられなかったのだとか。
女の子に対しては、鎮静作用(性的興奮を抑えるため)のある薬が投与されました。
殴打や拷問といった形での躾は日常的に行われていたのです。
そんな場所から逃げ出したのが、本作の主人公というわけですね!
今日の映学
最後までお読みいただきありがとうございます!
「オオカミの家」の見どころと解説をお届けしました。
アート好き、カルト映画好き、トラウマ映画好きにもオススメです。
覚悟して観てね♡
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