蓋をしておきたい、アメリカの黒歴史
マーティン・スコセッシ監督の最新作『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』を鑑賞しました。
20世紀初頭、オクラホマで暮らすオセージ族の富を奪うため、悪に手を染める白人入植者たちの姿を描いたストーリーです。
この映画には原作があり、2017年にベストセラーとなったデイヴィッド・グラン氏のノンフィクション小説『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン オセージ族連続怪死事件とFBIの誕生』という作品。
そう、ノンフィクションなんです。
架空の物語では、ないんですね。
先住民の土地が生む、莫大な富を狙う白人入植者の欲望によって、結果的に、この地域の裕福なオセージ族60人以上が命を奪われる事態となりました。
実際の犠牲者はもっと多いとされています。
いったい何が起きたのか…?
これを探るのが、『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』という映画なのであります。
今回の記事では、「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」の見どころや、実際の事件について詳しく解説していきます!
スコセッシ×ディカプリオ×デニーロ
本作は、何といってもディカプリオとデ・ニーロの共演が見ものです。
ディカプリオとデ・ニーロの両名は、共にスコセッシ監督と組んで名作を生み出してきました。
でも、意外にも3人が揃って作品を作ったことはいまだかつて一度もなかったんです。
今回が初の3共演。
ディカプリオもデ・ニーロもスコセッシ監督との相性は抜群。
しかも、主人公とその叔父という間柄。
いったいどのような作品になるのか、非常に目が離せませんよね。
観てきた感想としては、この二人の演技は圧巻。
二人が出ているからこそ、これまでのスコセッシ作品の二倍の作品へとに昇華しているように感じました。
デ・ニーロは少ししか出ないのかな、と何となく思っていたんですが、そんなことはありませんでした。
物語はディカプリオ中心に進みますが、その次くらいにデ・ニーロの出演時間が長いです。
両名の演技をたっぷりと味わえるんですよ。
ディカプリオは『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で自身が演じた役や『グッド・フェローズ』でレイ・リオッタが演じた役のような、どこか頼りなく、自尊感情の低い主人公を演じています。
言われるがままに、悪に手を染めて泥沼にハマっていく様を見事に演じます。
そしてそれを裏で操るフィクサーを演じるのがデ・ニーロ。
周囲に笑顔と金をばらまくことで、信頼と新たな財を獲得していく悪役がハマっていました。
両名の役どころが、これまでのスコセッシ監督作品に出てきた悪くて愚かな2人の人物像を描いているので、1本で2本分のボリューム感があります。
他にも注目キャストが!
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』には、登場人物がたくさん出てきます。
ちょい役でも、結構渋くていい感じのキャスティングがされてますので、一部ご紹介します。
ジーン・ジョーンズ
モリーの資産を管理している人を演じているジーン・ジョーンズ。
実はこの映画を語る上で、めっちゃ重要な役なんです。
詳しくは後述します。
モリーがお金を使う際にネチネチとした一言でストップをかけようとします。
おそらくデ・ニーロの息のかかった、悪役サイドです。
ジーン・ジョーンズは、私もどの作品に出ていたのか鑑賞中は思い出せなかったんですが、「このオッサン、何かで観たな~」と思っていました。それくらい印象的な見た目です。老いたブルドッグのような。
役もビタビタにハマっています。
映画デビューは『ノーカントリー』(2007)なので、結構遅咲きですね。
『ヘイト・フル・エイト』や『サクラメント 死の楽園』にも出演しています。
特に『サクラメント 死の楽園』の演技は凄まじいですよ。
ジェシー・プレモンス
Gメン役で後半に出てくる人物は、マット・デイモンかと思いきやこちらはそっくりさんのジェシー・プレモンス。
『アイリッシュマン』でスコセッシ監督と共演し、その後『パワー・オブ・ザ・ドッグ』などの話題作にも出演しています。
この人、フィリップ・シーモア・ホフマンにも似ているんですよ。
私は観た時、『リコリス・ピザ』でデビューしたクーパー・アレクサンダー・ホフマンが老け顔メイクで出ているのかなと思ったほど。
ジェシー・プレモンスは『ザ・マスター』でフィリップ・シーモア・ホフマンの息子役を演じています。
みんな似てると思ってるんですね。
ブレンダン・フレイザー
『ハムナプトラ』で人気となった、ブレンダン・フレイザーは、弁護士役で出演しています。
アカデミー俳優賞を受賞した『ザ・ホエール』以来の出演となります。
ですので、『ハムナプトラ』と違ってサイズはでかめ。
でも、困難を経た彼が再びこういった注目作に出られたことは嬉しい限りです。
これまた、デ・ニーロの息のかかった悪役サイドです。
というか、この映画に出ているオセージ村の白人、全員悪いんじゃないかな。
「オセージ族連続怪死事件」とは
本作は、実際にあった事件を基にした小説を映像化しています。
「オセージ族連続怪死事件」という、アメリカの負の歴史、隠しておきたいおぞましい事件の一つです。
小説を読んでいなくとも十分に楽しめましたが、事件の概要はある程度インプットしておいた方がストーリーの理解度は深まります。
1890年代にオセージ族保留地の地下から石油が発見されたために、オセージ族は巨額の富を手にした。
1920年代には、現在の価値で年間約4憶ドル(約600億円)に相当する石油が人々の生活を潤し、オセージ族は世界で最も裕福な部族と称されるまでになった。
当時の米国では、「アメリカ先住民は世間知らずで粗野な人々であり、手にした富を浪費しないよう白人が監督する必要がある」という見解が広く浸透していた。
政府も、歴史的にアメリカ先住民は連邦政府の保護を必要とする依存的な部族と見なし、先住民に権限を持たせるのではなく「保護する」ための法整備が進められていた。
しかし、こうした法律は、先住民の利益を守るどころか、先住民とその先祖伝来の土地を白人入植者たちが奪って思いのままにする手段として利用されることが多かった。
https://news.yahoo.co.jp/articles/7d8d8db5a9a204ec63000ba5ee0893cb83bb97ad
「保護する」といいつつ、結果的に土地も資産も支配することになってしまったという訳ですね。
複雑な話だねぇ。
オセージ族が新たな富を得たことで、部族の人々の金銭管理に世間の関心が高まった。お抱え運転手付きの自家用車や豪邸、ぜいたくな装いが新聞で報道されると、オセージ族はもっと賢く金銭を使うべきだ、と眉をひそめる人々も出てきた。
オセージ族には金銭管理能力がないという抗議の声を受け、1908年、裁判官が判断した「未成年者および無能力者」の所有地の管轄権を、米連邦議会がオクラホマ州の郡遺言検認裁判所に付与した。これを受けて遺言検認裁判所は、無能力者とされた人に対して白人の後見人を指名できるようになった。
この後見人は、その先住民の財務管理を監督し、彼らが所有する土地を賃貸に出したり売却したりすることも認められた。
https://news.yahoo.co.jp/articles/7d8d8db5a9a204ec63000ba5ee0893cb83bb97ad
ジーン・ジョーンズが演じていた役は、まさにこれなんです。
モリーが劇中で言っていた「無能力者」というのもここからきているんですよ!
こうして財務面の悪事が行われる環境が生まれ、やがて連続怪死事件にまで発展する。1921年以降、オセージ郡では不可解な死が次々と報告されるようになった。
1921年5月、アナ・カイル・ブラウンといとこのチャールズ・ホワイトホーンの遺体が、同じ日にオセージ郡の別の場所で発見された。2カ月後には、アナ・カイル・ブラウンの均等受益権を相続した母リジー・カイルが毒殺される。
次いで、1923年2月にはリジーの甥が殺害された。3月10日には自宅で不審な爆発が起き、リジーの娘夫婦と使用人が死亡した。
連続する殺人事件はオセージ郡の人々を恐怖に陥れ、「恐怖時代」として知られるようになった。一方、カイル一族の巨額の富は、一族の生存者であるモリー・カイルと夫のアーネスト・バークハートが相続した。モリーは純粋なオセージ族であり、リジー・カイルの娘としてただひとり生き残った。
この頃に毒殺疑惑、自殺に見せかけた死、列車からの投げ落としなどの不審死を遂げたオセージ族はカイル一族だけではなく、1921年から1925年の間に少なくとも60人のオセージ族が殺されたり行方不明になったりしている。犠牲者はすべて均等受益権で富を得た人々だった。 オセージ族評議会は、地元の有力な牧畜業者である白人、ウィリアム・K・ヘイルに疑いの目を向けていた。テキサス出身のヘイルは、オセージ族を食い物にする金融取引で知られ、郡で絶大な影響力を誇る人物だった。彼は銀行や地元の雑貨店、葬儀場を所有あるいは部分的に支配し、予備保安官でもあった。
ヘイルの甥であるバークハートはモリー・カイルと結婚していたので、カイル家の数百万ドルの資産を受け継いだ。
殺人事件は連続して起きていたが、地元の捜査関係者や警察の力では、この一連の事件を解決することができなかった。そこで、オセージ族評議会が事件の解決に連邦政府の支援を求めたところ、現在の米連邦捜査局(FBI)の前身である捜査局が、現地で秘密裏に捜査を開始した。 ヘイルと殺害事件とのつながりは徐々に明らかになってきたが、殺人事件はさらに発生した。モリー・カイルが「自分は毒を盛られているかもしれない」と司祭に告白したことから、捜査官が事態を打開した。ヘイルが甥にカイルとの結婚を迫り、その後に殺人請負人を雇いカイル一族を皆殺しにするよう命じた事実が明るみに出たのだ。伯父から圧力をかけられたバークハートは、毒入りウイスキーを妻に与えていたこともわかった。
オクラホマ州と連邦政府による数々の劇的な裁判だけでなく、証人となるべき数人が殺害されたことも、全米の注目を集めた。最終的にヘイルと共犯者2名には終身刑が言い渡された。しかし、連続怪死事件の大部分は未解決のままだ。
https://news.yahoo.co.jp/articles/7d8d8db5a9a204ec63000ba5ee0893cb83bb97ad
このあたりは、ほとんど映画と同じですね。
ウイスキーがインスリンの注射に変わっていたくらいでしょうか。
何ともおぞましい事件です。
フリーメーソン
本作では、デ・ニーロ演じるウィリアム・K・ヘイル(通称:キング)がフリーメーソンのメンバーであるというシーンが出てきます。
日本では都市伝説的に扱われるフリーメーソンですが、アメリカではちゃんと存在する組織として認識されています。
メンバーは有力者ばかりです。
映画の最後に、ウィリアム・K・ヘイルは終身刑で投獄されたものの、後に釈放され、87歳まで生き続けました。
あそこまでの大犯罪を犯した者が一体どうして…?
実は、FBIを作ったジョン・エドガー・フーヴァーもまた、フリーメーソンのメンバーだったとか…。
信じるか信じないかは、あなた次第です。
今日の映学
最後までお読みいただきありがとうございます!
「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」をより深く味わうための解説をお届けしました。
事件の全体像を掴んでから鑑賞すると、一層面白さが増しますよ。
余裕がある人は禁酒法についてもインプットするとよさそうだね!
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