関わっていなければ、守れない
映画『ミルクの中のイワナ』をシネマートで鑑賞しました。
本作は、イワナという生き物にだけスポットを当てたドキュメンタリー映画です。
びっくりするぐらい、面白いですよ。
魚好きでなくとも、釣り好きでなくとも。環境や人間以外の生き物にも気を使おう。自然と共に生きよう。という思いを少しでも持っている人ならば、間違いなく心に響く作品です。
源流域で暮らす生態はいまだ謎が多く、神秘の魚といわれるイワナ。その生態系がいま危機に直面している。SDGsや生物多様性が声高に叫ばれる昨今、「種を守る」とはどういうことか、地域社会と環境をいかに保全するべきか、わたしたちはいま改めて考え直すときに来ている。研究者や漁業関係者、釣り人など立場を異にする人々の証言から浮き彫りになるのは、イワナを通して見えてくる未来の地球の姿である。深山幽谷の美しい映像と音楽に癒されながら、人間と自然の普遍的テーマが胸をうつ、全人類必見のサイエンスドキュメンタリー。
https://trout-inthemilk.com/
先日私は『悪は存在しない』を鑑賞しましたが、この『ミルクの中のイワナ』はその内容を地でいくような作品なんです。
セットで観てもいいくらいかもしれません。このタイミングで観られたことは非常に幸福でした。
上映館が限られておりますので、今回の記事では、映画『ミルクの中のイワナ』を観て得た知識を少しでも紹介していこうと思います。
まずはちょっと変わったタイトルから!
タイトル『ミルクの中のイワナ』とは
『ミルクの中のイワナ』ちょっと変わったタイトルですよね。
ヘンリー・D・ソローの『ウォールデン 森の生活』という著書から来ています。
アメリカの自然の中で暮らし、その中で自給自足的な生活をしながら執筆をしていたソロー。
そんなソローが川の水で牛乳を薄める悪徳業者に対して発した言葉、
「Some circumstantial evidence is very strong, as when you find a trout in the milk」
から引用されたタイトルなんですね。
「状況証拠というものは牛乳の中に鱒を見つけたように、非常に強力なものだ」
という意味になります。
それ以来、「状況証拠しかないが、問題が存在することは明白である」という比喩表現として、
「ミルクの中のイワナ」
という言葉が使われるようになったんだそうです。
いやー、初めて知りました。まだまだ不勉強です。
映画も、そのソローの言葉をなぞるように、イワナに関する様々な証拠を並べるように、専門家が話す構成になっています。
イワナを取り巻く諸問題を明らかにしながら、解決への道を見いだそうとする素晴らしい内容になっています。
まるでミステリーのような
上述の通り、本作ではイワナを研究する様々な専門家が登場します。
誰が話す内容もめちゃくちゃ面白いのですが、特に面白かったのが、
「キリクチというイワナが、あるシーズンはカマドウマばかり食べている」という事実があるそうなんです。
イワナは水生昆虫や、川に落ちてしまった陸生昆虫を食べるらしいのですが、カマドウマは羽根がない生き物であるため、誤って水に落ちてしまうということは考えにくい。
どう考えても、自ら水の中に飛び込んでいるとしか思えない。
という推察に至り、イワナを開いてみたところ、イワナが食べたカマドウマには、ハリガネムシのような寄生虫が寄生していて、この寄生虫がカマドウマを操っているに違いない。
という結論に至ったそうです!
これ、めちゃくちゃ面白くないですか?めちゃくちゃ上質なミステリー小説みたいなロジック。
しかも、寄生虫なんて、気色悪いなあと思っていましたが、生物の食物連鎖の中で、しっかりとイワナが生きていくための役割を持っているだなんて…。
『ミルクの中のイワナ』のタイトルに見合った解説だと思ったし、生き物には人間の想像を優に越えていくロマンというか、なんというか…、そんなものを感じずにはいられませんでした。
放流しても数は増えない
イワナを守るために、個体数を増やすために、どのようなことができるか、また、どのような取り組みがなされてきたのか。
考えた時、真っ先に浮かぶのは放流なのではないでしょうか。
あるいは、釣り過ぎないこと。
『ミルクの中のイワナ』を観て、私が一番驚いたことは、放流ではイワナは増えないという事実でした。
たまにニュースなんかでも観る気がしますよね。
漁業協同組合の人や、地域の小学生なんかが、イワナを増やすために稚魚を放流しましたみたいな。
どうしてイワナが増えないのかというと、放流されるイワナは養殖魚だからなんです。
イワナというのは、住んでいる川によって模様が違います。
そこが、多様な生き物と言われる由縁でもあるのでしょう。
つまり、川固有の性質を持っているということなんですね。
養殖魚と交雑すると、その固有の性質が薄まり、その川では生きられなくなってしまうというわけなんです。
30年間放流しつづけているものの、イワナの数はあまり増えていないそうです。
関わりながら守っていく
じゃあ、いっそ人間の手は加えず、ほったらかしにして元の状態に戻るのを待つべきなのかというと、そういうわけでもありません。
山と人間が一切の関わりを持たないというのであれば、話は別ですが、そんなことはもう不可能ですよね。
ちなみに、人間がダムを作ってしまったことによって、イワナは海に降りることが難しくなってしまいました。
本来であれば、雌は卵をたくさん産むために、海に降りて身体を大きくして、川に戻ってくるという性質をもつイワナが多いそうです。
しかし、その反面、ダムがある事によって、養殖魚が野生のイワナの生息地に辿り着くことができず、固有種が守られているという側面もあるそうです。
つまり、イワナ本来の生き様は、すでにできないような環境化にしてしまっているということなので、これを助けることもまた、人間の手によってではないと成しえないのではないでしょうか。
あるいは、イワナのもつ野生の力に頼るか。
いずれにせよ、そのための研究費や保全の活動費というのは、どこかから捻出しなければならないんですよね。
今日の映学
最後までお読みいただきありがとうございます!
映画『ミルクの中のイワナ』で学んだことをお伝えしました。
チャンスがある人はぜひ観てみてください。絶対面白いですよこれは。
エンドロールで人間よりも前にイワナたちの名前が出るのも感動的だよね。
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