80年代NY。ユダヤ系アメリカ人と黒人少年は…。
映画「アルマゲドン・タイム ある日々の肖像」の見どころ解説です。
第75回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品されたドラマ作品です。
監督は「アド・アストラ」のジェームズ・グレイ。
今作は、監督の実体験を基に、差別と格差が根づく1980年代のNYで、白人家庭に育った少年を通して人種間の不条理な現実を描いた作品です。
<STORY>
公式YouTubeより引用
1980年代、ニューヨーク。ユダヤ系アメリカ人の中流家庭の末っ子ポールは、公立学校に通う12歳。PTA会長を務める教育熱心な母エスター(アン・ハサウェイ)、働き者でユーモラスな父アーヴィング(ジェレミー・ストロング)、私立学校に通う優秀な兄テッド(ライアン・セル)と何不自由のない生活を送っていた。しかしポールは、クラス一の問題児である黒人生徒ジョニー(ジェイリン・ウェッブ)と親しくなったことで、複雑な社会情勢が突きつける本当の逆境を知ることになる。あるとき、ポールとジョニーが学校でやらかした些細な悪さが、彼らの平穏な青春の日々に大きな波乱をもたらす。その解決しがたい問題に直面したとき、ポールは家族、特に強い絆で結ばれている祖父アーロン(アンソニー・ホプキンス)に頼ることができたが、家庭環境に恵まれないジョニーには支えてくれる大人が誰一人としていなかった。そして、このことが2人の行く末を大きく分けることになる――
ここからは、キャストの魅力や作品を立体的に味わうための見どころを解説します!
豪華キャストに注目!
今作は、アン・ハサウェイとアンソニー・ホプキンスが出演しています。
今作における、両者の演技の見どころをお伝えしていきましょう!
アン・ハサウェイ
アン・ハサウェイといえば、「プラダを着た悪魔」「マイ・インターン」あたりの印象が強いですね。
恋よりも、仕事に生きようとする女性役。
今作では、PTA会⻑を務める教育熱心な母役。
持ち前のチャーミングさは存分に発揮しつつ、子育てに悩む様子を見事に演じていました。
二児の母でありながら、どこか幼さの残る雰囲気。
父であるアンソニー・ホプキンスとのハグやチークダンスのシーンが素敵でした。
アンソニー・ホプキンス
アンソニー・ホプキンスといえば、言わずもがな「羊たちの沈黙」のレクター博士ですね。
レクター博士を演じたことで、アカデミー賞主演男優賞を受賞しています。
あれから30年以上の時が経ち、すっかりおじいさんになったアンソニー・ホプキンスですが、近年も凄まじい演技力で活躍中です。
2021年に公開された「ファーザー」では、認知症患者を演じ、これまたアカデミー賞主演男優賞を受賞。
「ファーザー」の演技は圧巻ですよ…。めちゃくちゃリアルです。
今作では主人公ポールと強い絆で結ばれている祖父を演じています。
やはり、アンソニー・ホプキンスの品格は絶品。
「高潔であれ」
「戦い続けろ。差別するクソ人間に屈するな」
このようなセリフがあれほど似合う俳優が他にいるでしょうか…。
主演バンクス・レペタ
主人公ポールを演じたバンクス・レペタにも注目です。
中性的なルックスで、非常に魅力的。
ティーンエイジャーならではの、生々しい葛藤や成長を演じ切っています。
アンソニー・ホプキンスとの絡みや、黒人少年との関わるシーンは、グッとくるものがありましたね…。
80年代のNY
今作は、監督自身の自伝的作品となっております。
監督が少年時代を過ごした80年代のNYをめちゃくちゃリアルに描いています。
晩御飯の風景までそっくりに描き、監督のお兄さんは非常に驚かれたのだとか笑
レーガン大統領
今作では、レーガン大統領が出演するニュース映像が何度か映されます。
レーガン大統領は、元俳優の、いわゆるセレブ俳優の先駆け的な人物です。
当時歴代最高齢の大統領でしたが、映画俳優をしていただけあり、そのルックスや、演説のパフォーマンスなどが大変だったとか。
レーガノミクスと呼ばれる経済政策や、ベトナム戦争におけるネガティブなイメージを払拭すべく「強いアメリカ」をスローガンに、軍事費を拡大したことが主な功績です。
「強いアメリカ」の主張のもと、グレナダ侵攻ではあっという間に人民革命政府を倒し、親米政権が樹立したことが有名。
軍事費拡大により、ソ連との間で新冷戦と呼ばれる状態をもたらしたものの、1985年以降はプラザ合意、ジュネーヴ会談を経て、核戦争での不戦を誓い、科学や文化でのソ連との交流に合意し、1987年12月8日には中距離核戦力(INF)全廃条約に調印するまでに至りました。
「アルマゲドン・タイム」では、レーガン大統領の就任直前あたりが舞台となっています。
ユダヤ人の人々や、黒人たちにとって、彼はどのような評価を受けていたのか。
このあたりの政治的・外交的背景を知っていると、映画がより立体的に感じられると思います!
差別
今作を観ると、監督自身が経験した、80年代当時のリアルなアメリカの差別感が伝わってきます。
当時は、ユダヤ人であれ、白人であったり、経済的に豊かであったり、姓を変えたりすることで、差別を受けにくかったようです。
しかし、黒人やヒスパニック・ラティーノは別。
見た目から明らかに違うことで差別を受けていました。
ユダヤ系の人々は、かつて差別を受けた経験から、黒人やヒスパニックに対しフレンドリーな一面もあったそう。
アンソニー・ホプキンスが、そのあたりの教訓を語るシーンが見られました。
いやはや、とても勉強になります。
映画監督の自伝的作品
繰り返しお伝えしていますが、今作はジェームズ・グレイ監督の自伝的作品。
最近、こういった作品、増えていますね。
差別や戦争がなかなか無くならない世の中へ向けた、メッセージなのかもしれません。
タイトル「アルマゲドン・タイム」の意味
私は今作のタイトルを知って、疑問に思ったことがあります。
あの名作「アルマゲドン」があるのになぜ…?
気になったので、アルマゲドンという単語について調べてみました。
アルマゲドンは、新約聖書に出てくる言葉で、終末に行われる善と悪の最終決戦を意味します。
これはおそらく、差別との戦いのことを指しているのだと思います。
ユダヤ人や黒人に対する差別の根絶の難しさや、屈することなく戦うべきという思いをこめて、このタイトルを付したのではないでしょうか。
…熱いメッセージだね!
こんな作品もおすすめ
自伝的作品としてオススメしたいのが、つい先日公開された、スティーブン・スピルバーグ監督の「フェイブルマンズ」
パン・ナリン監督の「エンドロールのつづき」
などなど。
映画監督の自伝や、映画を題材にした映画は本当に名作が多いです。
今日の映学
最後までお読みいただきありがとうございます!
「アルマゲドン・タイム」の見どころを解説しました!
アン・ハサウェイ、アンソニー・ホプキンスの出演だけでも十分に観る価値がありますが、差別意識や歴史を学びたい方にも非常にオススメの一本です!
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