目覚めたければ、眠れ
映画「アステロイド・シティ」を鑑賞しました。
旧Twitter、現Xにて、
「つまらない」「眠たくなる」「全然意味わからん」
など、ネガティブな評価を目にしたので、あまり期待せずに鑑賞しましたが、これ、かなり面白いですし、監督の思いがしっかりこもっています。
そういうパターン、なんか嬉しいよね。
今回の記事では、「アステロイド・シティ」がよくわからなかった、これから観たいけど、楽しめるか不安、そんな人に向けた解説をお届けします。
入れ子構造
本作は、「アステロイド・シティ」という作品を撮影しているという白黒の場面から始まります。
語り手や、演出家が出てくるんですね。
物語は概ね、ドラマの内容になるんですが、カラフルなドラマのストーリーの中に、時折白黒の舞台裏パートが挟まれます。
そもそも、カラフルなドラマパートも、俳優が無表情で、何を伝えたいのかわかりにくいんですが、頑張って没入しかけるとまた、白黒舞台裏パートという、何となく鑑賞者を振るい落とそうとしているような構造になっています。
ドラマの鑑賞者の視点で観ればいいのか、
製作者側の視点で観ればいいのか、
判然としないんです。
こういった、入れ子構造は、ゴダール監督が得意としていたので、ウェス・アンダーソン監督もそういった作風をイメージしたのでしょう。
鑑賞者の心を揺さぶることで、ストレートにものを伝えずに楽しませようというねらいでしょうか。
そのため、一見何を見せられているのかわかりにくいんですね。
ウェス・アンダーソン監督が本作で伝えたかったのは、現実に起こったいくつかの悲しい出来事なんです。
いくつかの悲しい出来事
まず、一つ目は、スカーレット・ヨハンソンの演じた女優。
あの役は、マリリン・モンローを意識しています。
列車のシーンや、喜劇役者であるという点、グラマラスな役者であり、眠剤による自死を彷彿とさせる点などが同じですね。
マリリン・モンローは、エリア・カザンという監督と愛人関係にありました。
列車のシーンの手紙はエリア・カザンからマリリン・モンローへあてたものなんですね。
そして、エリア・カザンの作品の脚本を書いていたのが、テネシー・ウィリアムズという人物で、彼は同性愛者でした。
これが序盤の白黒シーンであった、俳優と脚本家が抱き合うシーンに繋がります。
また、「この役の意味が分からない」というセリフには、アクターズスタジオという演技養成所のメソッドを否定するメッセージがこもっていますね。
このように、1950年の俳優たちの裏側を描いたいくつものメッセージが「アステロイド・シティ」には込められているんです。
二つ目の悲しい出来事は、核開発。
物語の舞台設定は、1950年代。
アメリカがソ連とテクノロジーの競争をしていた時代です。
本作は、核開発の施設の近くに天才が集まったというストーリーなんですが、これが奇しくもクリストファー・ノーラン監督の「オッペンハイマー」と同じような話なんですね。
あんな可愛い映像でもって、核開発の悲しくもおぞましい歴史を描いている訳です。
三つ目は心の傷。
本作には、
「時は心の傷を癒すが、バンドエイドくらいのものだ」
「心の傷があまりに大きいから見せたくない」
など、心の傷について語るシーンが観られます。
ウェス・アンダーソン監督作品には、大切な人を亡くした過去を持つキャラクターが多く登場します。
ウェス・アンダーソン監督は「天才マックスの世界」(1998)を作る直前に、両親を続けざまに亡くしているんです。
そのため、それ以降の映画の多くに、父や母を亡くした人物が登場します。
いまだ癒えない心の傷を、可愛い映像とシュールな世界観で隠しているんですね。
今日の映学
最後までお読みいただきありがとうございます!
ウェス・アンダーソン監督の最新作「アステロイド・シティ」について解説しました。
可愛さとシュールさの裏に監督の思いがたっぷり詰まっているんだね!
ウェス・アンダーソン監督の最高傑作かもしれませんよ…!
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