映画『教皇選挙』を鑑賞しました。
オスカーで多数の部門でノミネートされた本作、映画ファンとしては非常に気になる作品の一つなのではないでしょうか。
でも、「コンクラーヴェ」つまり、ローマ法王を選ぶための投票選挙についてなんて、何となく敷居が高いのでは?そもそもキリスト教に関する知識があんまりないから理解できるか不安だ。
そんな人もいるのではないかと思います。
結論から申し上げますと、ゴールデン・グローブとオスカーで脚本賞を獲った作品なので、知識がなくてもかなりエンタメとして楽しめます。
しかしその一方で、カトリック教会の今と、コンクラーヴェのシステムについて知っておくと、より映画を楽しめるということは間違いないでしょう。

今回の記事は、これから『教皇選挙』を観る方や、観たけど今一つよく分からなかったという方へ向けた解説記事になります。

映画の予習や復習に活用してね!
公式サイトの作品概要・あらすじ
INTRODUCTION:
カトリック教会の総本山・バチカンのトップに君臨する
ローマ教皇を決める教皇選挙<コンクラーベ>は、
世界中が固唾をのんで注目する一大イベントだ。
ところが外部からの介入や圧力を徹底的に遮断する選挙の舞台裏は、
ほんのひと握りの関係者以外、知る由もない。
この完全なる秘密主義のベールに覆われた選挙戦の内幕を描くのが映画『教皇選挙』である。
聖職者が政治家に見えてくるほどの熾烈なパワーゲーム、
投票を重ねるたびに目まぐるしく変わる情勢、そして息を呑む急展開のサプライズ。
政治的分断が深刻化している現代社会の縮図のような選挙戦の行方は、
悲劇か、それとも新たな時代の希望をたぐり寄せるのか——。
あらゆる観客の好奇心を刺激しながら、先読みを一切許さないストーリー展開で魅了する
超一級のミステリーが、遂にその禁を解く。STORY:
全世界に14億人以上の信徒を有するキリスト教最大の教派、カトリック教会。
その最高指導者にしてバチカン市国の元首であるローマ教皇が、死去した。
悲しみに暮れる暇もなく、
ローレンス枢機卿は新教皇を決める教皇選挙<コンクラーベ>を執り仕切ることに。
世界各国から100人を超える強力な候補者たちが集まり、
システィーナ礼拝堂の扉の向こうで極秘の投票が始まった。
票が割れるなか、水面下で蠢く陰謀、差別、スキャンダルの数々に
ローレンスの苦悩は深まっていく。
そして新教皇誕生を目前に、厳戒態勢下のバチカンを揺るがす大事件が勃発するのだった……。https://cclv-movie.jp

さらに、公式サイトで使用されている、人物相関図も、簡単に目を通しておくといいですよ。


まずはこの相関図にも出てきてる「リベラル派」や「保守派」という表現について説明するよ!
一般的なリベラル派と保守派
一般的な意味でいうところ、
リベラル派は、個人の自由や平等を重視し、社会的進歩を目指す傾向があります。以下が一般的な特徴です。
- 社会変革の推進:社会的不平等の解消や、人権の拡大を目指すことが多い。
- 多様性の尊重:文化や価値観の違いを受け入れる姿勢。
保守派は、伝統的な価値観や社会の安定を重視し、急激な変化を避ける傾向があります。以下が一般的な特徴です:
- 伝統の尊重:文化や宗教、家族構造などの伝統を大切にする。
- 漸進的な変化:急激な改革よりも、ゆるやかな変化を好む。
リベラル派は左寄り、保守派は右寄りという言われ方もします。
左翼、右翼とかいうものですね。
日本でいうところの、天皇制に重きを置いた思想というのは右寄りな場合が多く、
多様性を受け入れていこうという思想が強いのが左寄りって感じです。

なんとなく、リベラル派と保守派というのがどういうものかお分かりいただけたでしょうか。
それではこれを、カトリック教会に置き換えるとどうなるのかみていきましょう。
カトリック教会におけるリベラル派と保守派
カトリック教会におけるリベラル派
- 改革志向:教会の教義や慣習に対する柔軟性を求め、新しい時代に合わせた変化を推進する傾向があります。例えば、ジェンダー平等や現代社会の問題への対応を積極的に考えます。
- 対話の重視:他宗教や異なる価値観を持つ人々との対話を積極的に行い、包括的な姿勢を見せることが多い。
カトリック教会における保守派
- 伝統の維持:長い歴史に基づく教会の教義や儀式を守ることを重視し、急激な改革には慎重な姿勢を取ります。
- 教義の厳守:宗教的な倫理や価値観を厳格に守ることが重要だと考えます。
カトリック教会で、リベラルな思想を受け入れて実行していくというのは、なかなか大胆なことなんですよ。
まず、大前提として、カトリックはプロテスタントに比べて厳格な教えを守っているキリスト教の教派になるんですね。
聖書に対して厳密に解釈し、それを守らねばならない。そういったストイックな教派なんです。
もの凄く極端な例でいくと、婚姻前の男女は交わってはいけないし、性行為の際に避妊具をしようしてはならない。こういった教えがあります。結婚(子づくり)とは、新しい命を創る、神に対する協力のための聖なる儀式であると考えられているからです。
他にも、女性は神父になれないというきまりもあります。
こういった情報を知って、あなたはどのように感じたでしょうか?
ちょっと今の時代とかけ離れ過ぎているのでは…?
そう思った人は、リベラルな思考を持っている人です。
それでも、聖書の教えは守るべきだよね。
そう思った人は保守的な思想を持っている人だと言えるでしょう。
時代に合わせるメリットももちろんあるでしょうが、それはこれまでの伝統や聖書の教えを破ることに繋がってしまう。あるいは崩壊に繋がってしまうかもしれない。そう危惧する気持ちも、分かりますよね。

では、次項では、カトリック教会の現状について解説していくよ。
カトリック教会の現状
今、カトリック教会は真っ二つに分かれています。
もちろん、先述したリベラル派と保守派で対立している状況です。元々対立はあったでしょうが、さらに過熱しているのが現状になります。
というのも、2000年代以降、世界中で神父が少年少女にいたずらしていたことが発覚したんです。アメリカ、ドイツ、イギリス、フランス、オーストラリア、メキシコなど、本当に世界中で性的虐待の事実が明るみに出てしまったんですね。
脱会者はもちろん、賠償金で破産している状態なんですよ。
それを受けて、現在のローマ法王である、フランシスコ教皇が改革していきました。

フランシスコ教皇は、性的虐待や裏金などの不正行為に関与した聖職者に対して、厳しい対応を取る姿勢を示し、教会内の透明性を高めるための改革を進めていったんです。
具体的な例でいうと、カトリック教会の現代化と社会的課題への対応に力を入れ、教会を新しい時代に適応させるために下記のような改革を行いました。
- 教会の現代化
- 離婚して再婚した信者が聖体拝領に参加できる道を開くなど、教義に柔軟性を持たせる改革を推進。
- 同性愛者に対する包括的な姿勢を示し、差別や迫害に反対する立場を表明。同性カップルの法的保護を支持する発言も行うなど、画期的な姿勢を取っています。
- 女性の地位向上にも取り組み、教会運営における女性の役割を拡大させる議論を推進中。
- 環境問題への取り組み
- 気候変動問題に積極的に取り組み、地球環境の保護を宗教的な使命の一部として位置づける。
- 移民問題への対応
- 移民や難民の支援を優先課題とし、彼らの人権を擁護する姿勢を示す。
- 教会の透明性の向上
- バチカン銀行の不透明な取引に対処し、財政面の透明性を高めるための組織改革を実施。
- 性的虐待問題に対して、隠蔽を排除し厳格な調査を進める姿勢を見せた。
- 他宗教との対話
- 他宗教や異なる文化を持つコミュニティとの積極的な対話を推進し、教会の包括性を強調。

もう、お分かりのように、フランシスコ教皇というのは、ゴリゴリのリベラル派なんです!
だから、保守派はこれらの改革よく思わないんですね。
さらに、フランシスコ教皇は今88歳で、闘病中なんです。
そうです。映画冒頭で亡くなる教皇というのは、フランシスコ教皇がモデルなんです。
現実として、フランシスコ教皇は移民問題や環境問題、LGBTQの問題に対しても関心が高く、政治的にも鋭い発言をしてきました。
そして、保守派からの反発は物凄い。
全カトリック教徒14億人のトップに立つ彼が亡くなることは、世界全体が大きく変わりうる問題だと言えるでしょう。
今世界は保守派のムーブメントが強いです。移民やLGBTQに優しくない体制やトップが多い。トランプ大統領が最たる例でしょうか。
もし次に教皇となる人物が、ゴリゴリの保守派だったら、時代は大きく変わると言えるでしょうね。

少し、熱くなってしまいましたが、次は「コンクラーヴェ」のシステムについて解説しておきます。
コンクラーヴェとは
コンクラーヴェ(Conclave)は、カトリック教会において新しい教皇を選出するために行われる儀式や選挙のことを指します。

ラテン語で「鍵をかける」という意味があり、文字通り選出の過程は厳重な秘密の下で行われます。

『教皇選挙』は、そんな、みんなの気になるコンクラーヴェの様子をなんとか再現しようとしたわけですね。
通常、コンクラーヴェは現教皇の死去または退位後に開催され、バチカン市国にあるシスティーナ礼拝堂で行われます。
選挙には、80歳以下の枢機卿が参加資格を持ち、選出には全体の3分の2以上の賛成票が必要です。
投票が行われ、結果に応じて煙突から出る煙の色で選挙の進展が外部に示されます。
黒い煙は「まだ決定が出ていない」ことを意味し、白い煙が出た際には新しい教皇が選出されたことが知らされます。

映画でも煙突のシーンがあるのでお見逃しなく。
コンクラーヴェにおいて正式な「候補者リスト」は存在しないのが独特な点です。
基本的に、80歳未満の枢機卿が投票に参加し、その投票者たちが誰に票を投じるかを決めます。
つまり、明確に「立候補」や「推薦」という形は取られません。
ただし、選挙の過程において、多くの枢機卿が自然と「有力候補」と見なされる場合があり、これらの人物は教会での役職や過去の業績、そして他の枢機卿からの支持に基づいて注目されます。
コンクラーヴェでは特定の枢機卿が支持を集めるために議論や票の動きが展開されるため、結果として少数の枢機卿に票が集中することが一般的です。
これが、どういったことを意味するのかは、もうお分かりですよね。
保守派は保守派に。リベラル派はリベラル派に。あるいは中道的な人物にそれぞれ投じるわけです。
映画ではさらにいくつかの要素も絡んでくるのでそれはもう面白いですよ!
興味深いのは、新教皇として選出されるのは枢機卿である必要はありません。教会法的には、洗礼を受けたカトリック教徒であれば選出が可能とされていますが、近代ではこのようなケースは非常に稀です。
今日の映学
最後までお読みいただきありがとうございます。
『教皇選挙』を楽しむために、これから観る人や一度観たけどよく分からなかった人に向けて、カトリック教会の現状や、コンクラーヴェのシステムについて解説しました。

フランシスコ教皇がリベラル派として、様々な改革を行ったものの、高齢で病と闘っている今、とても他人事にはできない作品ですね。

もちろん、映画のストーリーもとっても面白いから、存分に楽しんでね!
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