ウォン・カーウァイ監督の名作「花様年華」を鑑賞しました。
トニー・レオンとマギー・チャンを主演に迎え、それぞれ家庭を持つ男女の不倫の愛を描いた恋愛ドラマ。
第53回カンヌ国際映画祭で最優秀男優賞とフランス映画高等技術委員会賞を受賞しています。
ただの男女の不倫を描いた映画なのに、なぜこんなにも素晴らしいものに昇華できるのか…。ゾッとするその表現技法と、映画の見どころを紹介します!
ABOUT
1962年、香港。新聞編集者の男性チャウと商社で秘書として働く女性チャンは、同じ日に同じアパートに引っ越してきて隣人になる。やがて2人は互いのパートナーが不倫関係にあることに気づき、時間を共有するように。戸惑いながらも、強く惹かれ合っていくチャウとチャンだったが……。
https://eiga.com/movie/1470/
私が観たのはシネマート心斎橋です。
シネマート心斎橋では、現在、ウォン・カーウァイ監督特集が行われており、テアトル梅田でも開催中。
どちらにおいても、かなりの盛況っぷりです。
作品によってはチケット完売です。
ミニシアターには珍しい。たくさんのファンがいらっしゃるということでしょう。
今なお人々を魅了する、その艶やかさ。
ぐぐっと引き込まれる、甘美な映像に酔いしれました。
香港への郷愁
『花様年華』には、ウォン・カーウァイ監督の、香港への想いがたくさん詰まっています。
王家衛(ウォン・カーウァイ)は1963年に香港に移住してきた。「当時住んでいたアパートの隣人には、(当時)上海から来たばかりの人たち、貧乏人、裕福な映画スター、作家、ナイトクラ ブの女、仕立屋、インドの小売商人やフィリピンの音楽家が含まれていた。」 これらの人たちはみんな、六十年代三部作の登場人物のモデルになったと考えられる。例えば、 『花様年華』に登場する周慕雲は新聞の編集者であり、作家でもある。『欲望の翼』にも、船員、 ダンサーなどが現れる。このように、王家衛は子供時代に実際に出会った人物たちの形象を映画 に持ち込んでおり、六十年代の実体験を参照しつつ香港を描こうとしてきたことがわかる
https://www.waseda.jp/flas/glas/assets/uploads/2019/04/ZHANG-Yubo_0435-0450.pdf
ウォン・カーウァイ監督自身が育った香港の思い出を、映像にしているわけですね。
また、『欲望の翼』は1960年から1961年まで、『花様年華』は1962年から1966年まで、 『2046』は1966年から1970年までになっており、これらの作品には、共通した人物が登場します。
ウォン・カーウァイ監督は、フランシス・フォード・コッポラの「ゴッドファーザー」から、これらの作品をヒントを得ました。
ひとつの作品にまとめるのではなく、三部作にすることで、より濃厚に、より強い想いを寄せることに成功したということですね。
香港という街への想いの強さは、『花様年華』の最後のセリフにもよく表れています…。
「男は過ぎ去った年月を思い起こす。埃で汚れたガラス越しに見るかのように。過去は見るだけで、触れることはできない。見える物はすべて幻のようにぼんやりと…」
あの頃を懐かしんでいるのか、それともガラスを突き破ってでも戻りたいのか。答えはウォン・カーウァイ監督の胸の中です。
ちなみに、タイトルの『花様年華』は、『人生で最も美しい瞬間』を意味します。
シンガポールに渡ったり、大家がアメリカへ移住したり。切ない愛の物語と同時に描く、激動と混乱の香港にもご注目ください。
あまりにも美しいカメラワーク
今作の凄さは、その美しすぎるカメラワークにあります。
正直なところ、ストーリー自体は、爽やかな不倫映画といったところ。
しかし、それを昇華させるカメラワーク。
トニー・レオンとマギー・チャンはもちろんのこと、景色や、手元のアップを映すさまも、ウットリを通り越して、時にゾクりとするほど。
特に観ていただきたいのが、地下にある屋台への階段を降りるシーンです。
スローモーションで、ゆったりと。
これぞ、魅せるシーンです。
哀しみも美しさも、愛僧もこもっているような…。
このシーンを筆頭に、美しさをくっきりと浮き彫りにする素晴らしいカメラワークです。
「香港の人が不倫する映画を観たよ」という説明だけでは足りない。
でも言葉で言い表すのは難しい。観てもらうほかにはない。
「いい映画みたなぁ」と充実した気持ちでいっぱいになります。
ナットキングコールの音楽も必聴
『花様年華』ではナットキングコールの曲がたくさん流れます。
カンフー映画では聞いたことがありませんね笑
これがまた、洒落てます。
映画の世界を、よりムーディーに包み込む音楽も要チェックです。
物語に関する豆知識
ここからは、物語の理解度や、楽しみが深まる豆知識をお伝えします。
チャイナドレス・ナビゲーション
『花様年華』は、急に場面が切り替わり、再びトニー・レオンとマギー・チャンのツーショットで始まることがしばしばあります。
そのことから、さっきの続きなのか、時間が経過しているのかが、今一つわかりにくい作りとなっています。
そんな時に判断材料にしてほしいのが、マギー・チャンのチャイナドレスです。
彼女のドレスの柄が変わっていたら、それは別の日になっているということなので、ウットリしつつ、柄の変化を意識しながらご鑑賞ください。
ステーキの付け合わせに中華?!
トニー・レオンとマギー・チャンが二人でステーキを食すシーンがあります。
この時の付け合わせにはカルチャーショックを受けました。
普通ステーキの付け合わせといえば、ポテトやブロッコリー、ニンジンのソテーと相場が決まっていますよね。
ですが、今作では、トニー・レオンの皿には春巻き的なもの。マギー・チャンの皿にはワンタン的なものが添えられています。
ステーキと中華、実に面白い組み合わせです。
室内の区切り
香港の住宅では「アマさん」と呼ばれるお手伝いさんを雇うのが割とメジャーです。
女性の活躍と就労の機会を増やす、香港らしさが出ています。
そのため、同じ住居の中でも、「アマさん」が働きやすいように、仕切りを設けていることが多いのだとか。
住み込みで働くケースも多いそうです。
映画の中で、
「あのなれなれしいおばさんは何者??」
「距離感近すぎるだろ」
と感じることがあるかと思います。
手紙のようなセンシティブな情報までずけずけモノ申してましてからね笑
晩御飯もグイグイ誘ってきたり…。
でもあれは、割と気の置けない関係の「アマさん」といったところなのでしょう。
今日の映学
最後までお読みいただきありがとうございます!
『花様年華』について解説しました。美しすぎるカメラワークに映える、トニー・レオンとマギー・チャン。そしてウォン・カーウァイ監督の香港への想いを堪能できる名作です。
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