私は決して、自分であることを諦めなかった。
映画「インスペクション」を鑑賞しました。
海兵隊在職中に映像記録担当としてキャリアを始めたエレガンス・ブラットン監督の長編デビューとなった本作。
本作は、監督自身の体験を基に、宗教、人種、セクシャリティなど、様々なものが検閲(インスペクション)されるアメリカ海兵隊で過ごした日々を描いています。
アメリカならではって感じで、複雑そうだね…。
今回の記事では、映画「インスペクション」で学んだことを解説していきます。
STORY
ゲイであることで母に捨てられ、16歳から10年間ホームレス生活を送っていた青年・フレンチ(ジェレミー・ポープ)。どこにも居場所を許されず、自らの存在意義を追い求める彼は、生きるためのたったひとつの選択肢と信じて海兵隊への入隊を志願する。だが、訓練初日から教官の過酷なしごきに遭い、さらにゲイであることが周囲に知れ渡るや否や激しい差別にさらされてしまう……。理不尽な日々に幾度も心が折れそうになりながらもその都度自らを奮い立たせ、毅然と暴力と憎悪に立ち向かうフレンチ。僕が僕のままで在るために、自分の意志でここに居る――。孤立を恐れず、同時に決して他者を見限らない彼の信念は、徐々に周囲の意識を変えていく。
映画公式サイトより引用
16歳で捨てられるというのが、中々珍しいですよね。
映画だと、もっと幼い時に孤児になるパターンの方が多いですもん。
16歳というと、日本では中学校卒業。働く事の出来る年齢です。
アメリカでもこのあたりは同じなのでしょう。
もう、自分で生きていけるだろうという…。何ともハードなお話ですが。
また、そこには、セクシャリティの問題が大きく関わっていると。
軍隊とは DADTとは
本作を観るにあたって、軍隊についての理解はある程度持っておいた方がいいでしょう。
また、物語のキーである“DADT”というルール。
軍隊は最大の雇用先
アメリカの軍隊は、性的マイノリティには特別な場所である。たとえば1万5千人ものトランスジェンダーの人びとが所属しており、最大の雇用先と言われる。他のマイノリティや貧困層と同様に、生きていくための選択肢が少ないから、という社会構造があるのである。しかし、そうした不公平な背景がありながらも、軍隊は肯定的に捉えられる側面もある。一般社会では差別され、不要な存在とされていたマイノリティが、軍隊では、苦難をともにした仲間や、心の通じた上官に承認され、役割を与えられ、成長していく。軍隊は、社会から外れた者たちが、アイデンティティを確立できる場所でもあるのである。
もちろん軍隊にも差別はあるし、一般社会より非道い、とも言えよう。教官が浴びせる侮蔑語や処遇が訓練を逸脱することもあれば、新兵のあいだの差別意識も消えてはいない。人種差別の問題はあるていど改善されてきたかもしれないが、性的マイノリティへの対処は1990年代から始まったばかりである。
藤本龍児 COMMENTARY より引用
軍隊に入れば、もちろんお金を稼げるし、一般社会で差別を受けやすい性的マイノリティの人々にとっては、実は最大の雇用先であると。
これは、何というか、意外ですよね。
でも、2005年の兵士育成も、それほど「フルメタルジャケット」と変わらない様子でした笑
DADTとは
この映画でも、1994年以来のDADTという対処規定がカギとなり、タイトルにもつながっている。1992年の大統領選でビル・クリントンは、同性愛者の服務禁止規定を撤廃する、と公約した。しかし就任後には、軍の幹部や保守勢力から「軍事力の要である士気や規律、部隊の結束にリスクをもたらす」として反対されることになる。代わりに妥協策として連邦法に規定されたのが「DADT:Don’t Ask, Don’t Tell」であった。同性愛者かどうかを「訊くな、言うな」ということであり、公にしなければ容認する、という対処法である。これが、上官であっても守らなければならない、軍隊における「法(ローズ)」の一つとなった。2005年を舞台とした「The Inspection」では、これが肯定的に語られている。
ところが、2008年の大統領選では、バラク・オバマがDADTを撤廃する、と公約とした。DADTは、性的アイデンティティを自ら偽らせる圧力をもっているし、制定後、およそ1万4千人が除隊させられていたからである。オバマは、2011年にDADTを、2016年にはトランスジェンダーの禁止規定も撤廃した。逆に2017年には、トランプ大統領がトランスジェンダーの従軍を禁止する方針を打ち出したが、2021年にはバイデン大統領が改めて性的マイノリティの権利を保障した。
藤本龍児 COMMENTARY より引用
「DADT:Don’t Ask, Don’t Tell」同性愛者かどうかを「訊くな、言うな」というルール。
臭い物に蓋、のような雰囲気を感じなくもないルールですよね。
でも、あれば性的マイノリティの人々を守ることになりそうでもあり、非常にナーバスなところです。
そのあたりのカウンターカルチャーが、今起こっているんでしょうね。
この映画観て、はたしてどう感じるか。
宗教やセクシャリティを越えた絆
本作では、主人公は無事に訓練を終え、海兵になる目標を果たします。
終盤では仲間たちも、ゲイである主人公を受け入れていきます。
しかし、息子のセクシャリティを、母親は最後まで受け入れることができませんでした。
本作の主人公の母親は敬虔なキリスト教信者です。
キリスト教では同性愛がご法度。
そのため、主人公は勘当されたというところでしょう。
主人公と一緒に隊員となった仲間たちも、ほとんどがキリスト教信者でした。
しかし、彼らは仲間だと認めることができたと。
加えて、隊員の中には、戦争で敵となるイスラム教信者もいるようでした。
しかし、異教徒もまた、彼らは仲間だと認めることができた。
これは、一緒に厳しい訓練の日々を乗り越えた者たちにのみ存在する一体感や仲間意識、絆のようなものが生まれた結果なのだと思います。
そういった、宗教や、セクシャリティをも越える絆を作ることができるのだという学びに繋がりました。
これが戦争に向かう兵士でなければ、もっとよかったんですがね。
でも、それくらい厳しい状況下でなければ、作れない強固な絆なのかも。
また、違う角度で観ると、これは宗教観の薄まりであるという見方もできます。
イスラム教徒は敵であるという思想をもった上官も、ゲイの息子を受け入れられない母親も、ある意味では信心深さの結果なのかもしれません。
若い世代になるほど、キリスト教を信じる濃度が薄いため、イスラム教の仲間を受け入れ、同性愛者も受け入れることができるという見方もできますね。
このあたりはやはり、カウンターカルチャーを描いているのでしょう。
今日の映学
最後までお読みいただきありがとうございます!
「インスペクション」の見どころや、学びをお伝えしました。
この映画のラストは、かなりいいです。
私の大好きな切なさを残すエンディング。
宗教やセクシャリティについて関心が高い人はぜひ観てみてね!
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