あなたを1位にしてあげる
『遺書、公開。』を観た後の解説記事です。
今回の記事は、完全ネタバレありの解説記事です。映画を観た後に、ラストや登場人物について詳しく分析したい人に向けた記事になります。
これから映画を観る人や、ネタバレを読まずに映画を観たい人は、まずは観る前解説を読んでね!
それではここから先はネタバレありになりますので、ご注意ください!
ティーンエージャーの欲求と思考
『遺書、公開。』では、クラスの序列1位の女の子の死をきっかけに、同級生たちの様々な思いが暴露されていくことになります。
人間の欲望、愚かさ、弱さ。そういったものを残酷に描いているんです。
特に彼らのようなティーンエージャーであればより強く抱えてるであろう欲求や、思考を強烈に映し出す。そういった作品になっているんです。
それではここから、『遺書、公開。』の中で描かれた欲求や思考について解説してきます。
1番になりたいという気持ち
『遺書、公開。』では、自殺した姫山椿が、
「1位になりたい。だれか私を1位にして」
そういった思いを抱えていたことが明らかになります。
アメリカの心理学者 アブラハム・マズローが提唱した「5段階欲求」というものをご存じでしょうか。
5段階は、下から
生理的欲求(生きるために不可欠)、
安全の欲求(心身ともに安全でいたい)、
社会的欲求(家族・友人など集団に属していたい)、
承認欲求(他者に認められたい・尊敬されたい)、
自己実現の欲求(他の欲求をすべて満たした上で理想の自分になりたい)
という階層になります。
下から順番にその欲求が満たされることで、最終的に一番上の自己実現を達成するという内容になのです。
椿の場合は、彼女がそこまで人から認められていなかったということが明らかになったので、承認欲求を満たしきれず、あるいは人から作られてしまったものであったため耐えきれずに、自己実現を果たせないまま絶命してしまったというかたちなのではないでしょうか。
この5段階欲求については、他のキャラクターに当てはめてみるのも面白いですよ。
序列・人気こそがすべてだという思考
始業式の日にクラスの序列が公表されたことで、2-Dは困惑しますが、やがてそのランキングを信じて、それに伴って人間関係を形成していきました。
「やっぱり1位はすごい」「1位だから可愛い」「1位なんだから当然」
こういった思考回路に陥っていくんですね。
この、「みんなが良いって言ってるからいいと思う」という思考回路は、
英語で「Bandwagon Effect」と呼ばれます。日本語だとバンドワゴン効果です。
行列の先頭にいる楽隊車(バンドワゴン)に由来していて、バンドワゴンに乗るという表現は、時流に乗る、多勢に与する、勝ち馬に乗るという意味があります。つまり、多くの人が支持しているものに対してさらに多くの支持が集まる現象を指しています。
これは、多くの人が支持しているものを自分も支持する傾向のことを指します。心理学的には、他人の意見や行動に影響を受けて、自分の判断を変える現象です。
例えば、人気投票で1位になってるから、テレビにたくさん出てるから、雑誌でいいものだと紹介されてるから、YouTubeで人気だと紹介されていたからなど、そういった理由でそれをいいものだと信じ込んでしまうような思考ですね。
テレビCMや動画の広告に芸能人が起用されるのも同じ効果をねらったものです。
誰が決めたか分からないランキングを、たまたま観てしまっただけなのに、「人気があるらしいよ」と人に教えた経験、ありますよね?
この心理はかなり強烈なので、油断するとすぐにコントロールされてしまいます。くれぐれも気をつけていきたいものです。
行き過ぎた好奇心
ラストシーンの解説にもなります。
最終的に『遺書、公開。』では、廿日市くるみが姫山椿を1位にするために序列ランキングをクラスに広めて、さらに遺書を作ったということが明らかになります。
クラスメイトの前では、姫山椿のために善意でとった行動であり、クラスメイトたちのバンドワゴン効果によって、姫山椿は苦しみ、死に至った。至らしめたのは、自分ではなく、1位として彼女を認識し、接したクラスメイトたちであると。
しかし、最後の最後に、そうでないことが分かります。
姫山椿の姉もまた、完璧で、1位であることがコンプレックスとなり自死しており、姫山椿にも同じことをしたら、やっぱり死んでしまうのではないだろうか。クラスメイトたちが変わっていくその過程も観てみたい。
廿日市くるみにはそういった狙いがあったのです。
彼女は人間観察が趣味なんですね。そして、『遺書、公開。』では、時折、教室を後ろ・前・横・上から眺めているようなカットと、水槽の中のような「コポコポ…」といった音が流れるんです。
つまり、クラスメイト全員が廿日市くるみにとって水槽の中の魚のような、観察の対象であったかのような演出ですね。
こういったものを、「Excessive curiosity」や 「Toxic curiosity」と言います。日本語で言うと、「過剰な好奇心」とか、「有毒な好奇心」です。
探求心が過度に強くなり、日常生活や人間関係に支障をきたす場合に使われるんですね。
私はかなり俯瞰してこの映画を観ていたので、廿日市くるみが恐くて仕方が無かったです。
終盤は半ばクラスメイトたちが姫山椿を殺したような語りをしていましたが、そもそも廿日市くるみが序列を作って1位に仕向けたことがすべての元凶だからです。
この、いつの間にか話の論点を逸らすものも、「Red Herring」という議論のテクニックです。詐欺師もよく使うテクニックですね。
最後まで観て、廿日市くるみよりもクラスメイトたちが悪いと思ってしまったあなた。騙されていませんか…?
今日の映学
最後までお読みいただきありがとうございます!
『遺書、公開。』のネタバレ解説をお届けしました。
心理学的に興味深いポイントがたくさんあるんですよね。高校生に対する実験みたいな。『es』を思い出すような映画でした。
結局それも、廿日市くるみの観察・研究・好奇心の内だったってことなのかな。
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