タイムカプセルのように思いを閉じ込めて
映画『枯れ葉』を鑑賞しました。
フィンランドを代表する映画監督、アキ・カウリスマキの最新作です。
実は6年前に引退を宣言していたんですよ。
戻ってきてくれてよかったねぇ。
めちゃくちゃいい映画でした。
個人的なことになりますが、2024年に初めに観る映画はこれにしようと決めて、あえて2023年に観るのを敬遠していたんです。
その期待に応えてくれる、圧巻のアキ・カウリスマキ節でした。
やさしい気持ちになれますし、混沌とした世の中でも、楽しみを見つけて生きていこうと思える作品です。
今回の記事では、そんな映画『枯れ葉』から漂う、3つの魅力をお伝えします!
孤独さを抱えながら生きる女と男。ヘルシンキの街で、アンサは理不尽な理由から仕事を失い、ホラッパは酒に溺れながらもどうにか工事現場で働いている。ある夜、ふたりはカラオケバーで出会い、互いの名前も知らないまま惹かれ合う。だが、不運な偶然と現実の過酷さが、彼らをささやかな幸福から遠ざける。果たしてふたりは、無事に再会を果たし想いを通じ合わせることができるのか? いくつもの回り道を経て、物語はカウリスマキ流の最高のハッピーエンドにたどりつく。
https://kareha-movie.com/
漂う独特な世界観
まずはアキ・カウリスマキらしい独特な世界観が魅力です。
俳優の演技や、音楽など、アキ・カウリスマキ監督の映画には独特の癖があるんです。
自由さにも似ています。
その理由をほんの少しお伝えしようと思います。
35㎜で1発撮り
『枯れ葉』の撮影は、デジタルではなく、35㎜のフィルムで行われました。
アキ・カウリスマキ監督は35㎜へのこだわりがかなり強いのだとか。
35㎜のフィルムって、もの凄く高いんですよ。
だから、撮りなおしがしづらい。
そのため、ほとんどの撮影が1発撮りで行われたそうです。
だからこそ、俳優たちは独特な緊張感のある演技を魅せているんですね!
『浮き雲』との共通点
本作には、アキ・カウリスマキ監督の代表作『浮き雲』との共通点がたくさん観られます。
路面電車、クロスワード、ラジオのある食卓、そして犬。
ストーリーこそ違いますが、人間讃歌のようなメッセージ性も似ています。
アキ・カウリスマキ監督は小津安二郎を敬愛しているので、小津安二郎を感じる演出が、どちらの映画にもたくさん観られます。
ちなみにあのワンちゃん、本当の名前はアルマなんですって。
主演女優と同じ名前だなんて、面白い偶然ですよね。
ワンちゃんのアルマはかつてポルトガルの野良犬で、アキ・カウリスマキ監督自身の飼い犬なんです。
その演技力には、俳優やスタッフも驚いたそうです。
パルムドッグですね~。
音楽がたまらない
本作は音楽もとても魅力的。
基本的にはほとんど静かな映画なのですが、ここ!という時の音楽がたまらないんです。
出会いのシーンや、路面電車のシーンなど、二人の心の動きに合わせてびたっとハマる音楽に酔いしれました。
途中、パブのシーンで、女性二人組のバンドが登場するんですが、彼女たちはフィンランドに実在するバンドです。
マウステテュトットという女性デュオのバンドで、グループ名はフィンランド語で「スパイス・ガールズ」という意味になります笑
漂う戦争の影響
『枯れ葉』では、度々ロシア×ウクライナ戦争に関する放送がラジオから流れてくるんです。
この映画について、監督はこのように語っています。
取るに足らないバイオレンス映画を作っては自分の評価を怪しくしてきた私ですが、無意味でバカげた犯罪である戦争の全てに嫌気がさして、ついに人類に未来をもたらすかもしれないテーマ、すなわち愛を求める心、連帯、希望、そして他人や自然といった全ての生きるものと死んだものへの敬意、そんなことを物語として描くことにしました。それこそが語るに足るものだという前提で。
https://kareha-movie.com/
また、主演のアルマ・ポウスティはインタビューで以下のように語っています。
アキは、この時代に映画を作るにあたって、あの戦争にコメントせずに作ることはできないということを言っていました。だからタイムカプセルのように、その時に起きていたことを映画作品の中に閉じ込めておく。それは、あの時にこんなことが起きていたということの証拠を、芸術家の責任として後世にこの映画を見た人に残しておけるということだと思うんです。
https://kareha-movie.com/interview.html
二人の孤独な人物がこの映画に出てきますが、人生ではちょっと儚いこともある、一瞬にして何もかもを失ってしまうようなこともある。そんな中でも、例えば恋に落ちて誰かを愛するとか、そんなことが人生に必要な勇気なんじゃないか。自分を変えて、勇気を出して愛を伝える。この一度しかない人生をどう生きるか、どう過ごすか、変えていく勇気がもてるのか…ということを、とても強いメッセージとして伝えていると思います。
もう、めちゃくちゃ納得ですね。
私自身、近頃感じるところではあります。
戦争や経済など、漠然とした不安が多い昨今の世の中。
でも、楽しむときは楽しんでいきたいし、それを求める活動だってしていきたいですよね。
フィンランドという国は、ロシアと繋がっています。ウクライナとも近いです。
戦争に対する鬱屈とした思いや緊張感は日本とは比べ物にならないでしょう。
それでも一度しかない人生をどう生きるか、どう過ごすか、変えていく勇気がもっていこうと、前向きなメッセージをくれたのであります。
漂う映画への愛
『枯れ葉』には、映画に対する愛がたくさん詰まっています。
映画館でのデートしかり、作中の引用しかり。
ちなみにデートの時の映画は、盟友ジム・ジャームッシュの『デッド・ドント・ダイ』でした。
全体に漂う小津調はさることながら、『女相続人』(ウィリアム・ワイラー)『はなればなれに』(ジャン=リュック・ゴダール)を引用したりという粋な演出が随所に見られます。
チャップリンの名前も出てきましたね。
もう、この人は本当に映画監督を尊敬しているんだな~としみじみ感じらます。
大変魅力的です。
今日の映学
最後までお読みいただきありがとうございます!
映画『枯れ葉』から漂う3つの魅力についてお伝えしました。
世界観も音楽もメッセージ性も、たまりません。
映画が大好きなことも伝わってくるよね!
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