『あの歌を憶えている』記憶って曖昧。

『あの歌を憶えている』を鑑賞しました。

『ニューオーダー』を監督した、ミシェル・フランコの作品でかつ、『サスペリア』のジェシカ・ハーパー出演ということで、ホラーではないものの、少し何かを期待しながら鑑賞してきました。

思った通り、ただのドラマ映画ではなく、一癖ある作品でした。

もう一つこの映画で大切にされているのが『青い影』という曲。

ネタバレのある箇所については直前でアナウンスしますので、これから鑑賞される方もご安心ください。

忘れたい記憶を抱える女と忘れたくない記憶を失っていく男が出会い、互いに支えあいながら希望を見いだしていく姿を優しいまなざしでつづったヒューマンドラマ。

作品概要

ニューヨークで13歳の娘と暮らすソーシャルワーカーのシルヴィアは、若年性認知症で記憶障害を抱えるソールと出会う。家族に頼まれてソールの面倒を見るようになったシルヴィアは、ソールの穏やかで優しい人柄と、彼が抱える抗えない運命への哀しみに触れ、次第にひかれていく。しかしシルヴィアもまた、ある過去のせいで心に傷を抱えていた。それぞれ自分の殻に閉じこもって生きてきた2人は、互いに寄り添いながら自身の過去や人生と向きあっていく。
ジェシカ・チャステインがシルヴィア、ピーター・サースガードがソールを演じ、2023年・第80回ベネチア国際映画祭にてサースガードがボルピ杯（最優秀男優賞）を受賞。テレビドラマ「ゴッドレス　神の消えた町」のメリット・ウェバー、「サスペリア」のジェシカ・ハーパーが共演。「或る終焉」「ニューオーダー」などで知られるメキシコの俊英ミシェル・フランコが監督・脚本を手がけた。
https://eiga.com/movie/99912/

冒頭でもお伝えしました通り、監督脚本はメキシコの俊英ミシェル・フランコ。

『ニューオーダー』があまりにも衝撃的で過激な作品だったので、私も本作がどんな仕上がりなのか非常に気になっていました。

主人公のシルヴィアを演じるのは、『タミー・フェイの瞳』でアカデミー賞主演女優賞、『ゼロ・ダーク・サーティ』でゴールデングローブ賞女優賞を受賞したジェシカ・チャステイン。トップスターの彼女が、自ら街に出てブティックで衣裳を選び、自らヘアメイクを施し、ニューヨークで決して豊かではない暮らしを営む女性へと見事に転身しています。

ソール役には、『ニュースの天才』『アウシュビッツの生還者』『THE GUILTY』など多くの話題作に出演するピーター・サースガード。本作での演技も素晴らしく、ヴェネツィア国際映画祭男優賞を受賞しています。

そして、個人的にもっと気になるキャストであるジェシカ・ハーパーは、主人公の母親を演じています。2人の間には深い溝があり、それが一体なんなのか、次第に分かっていくんですよ。いいキャスティングだと思います。

　

青い影の歌詞

本作で繰り返し流れる曲『青い影』は、イギリスのロック・バンド、プロコル・ハルムが1967年にリリースした曲で、全世界1000万枚以上を売り上げた大ヒットナンバー。

洋ロックに関心がある人は、一度はどこかで耳にしたことがあるかもしれません。私もそんな感じで、歌詞についてはいまいち知らないので、解説しておきます。

We skipped the light fandango
Turned cartwheels 'cross the floor
I was feeling kinda seasick
But the crowd called out for more
The room was humming harder
As the ceiling flew away
When we called out for another drink
The waiter brought a tray
僕らは軽やかにファンダンゴを踊った
回って車輪が横切って
僕は船酔いを感じた
でもみんなはもっと踊れって言って
ハミングも激しくなった　
天井が飛んでいくほど
おかわりを頼むと、
ウエイターがトレイを持ってきた

And so it was later
As the miller told his tale
That her face at first just ghostly
Turned a whiter shade of pale
そのすぐ後
製粉屋が自分を物語るように
彼女の顔は幽霊のように
青白い影へと変わった

She said, "There is no reason And the truth is　plain to see"
But I wandered through my playing cards Would not let her be One of 16 vestal virgins We're leaving for the coast
And although my eyes were open
They might have just as well been closed
彼女は言った　理由はないし答えは明白
僕はどの手札を出すべきか迷った
彼女を16人のヴェスタのひとりに、させたくなかった
僕は目を開けていたけど
閉じてた方が良かったのかも

And so it was that later
As the miller told his tale
That her face at first just ghostly
Turned a whiter shade of pale
そのすぐ後
製粉屋が自分を物語るように
彼女の顔は幽霊のように
青白い影へと変わった

And so it was later
As the miller told his tale
That her face, at first just ghostly
Turned a whiter shade of pale
そのすぐ後
製粉屋が自分を物語るように
彼女の顔は幽霊のように
青白い影へと変わった

という感じ。比喩が多くて分かりにくいですね。

この曲が作られた背景としては、当時のメンバーであるゲイリー・ブルッカー（ボーカル兼ピアノ）とキース・リード（作詞）が関与しています。ブルッカーは、ヨハン・セバスチャン・バッハのカンタータ第140番「目覚めよ、とわれらに呼ばわる物見らの声」をアレンジし、リードは様々な詩的なインスピレーションをもとに歌詞を書き上げました。

昔の小説とか福音書とかも絡んだ歌詞なので、分かりにくくなってるんですね～。

表面上は、パートナーに浮気された男の人について歌ってるらしいです。
まあ、劇中でも言ってたように、メロディがとにかくいい歌なんですよね。
だから、歌詞の方はあまり関係なかったようです。

　

感想（ネタバレあり）

本作では、若年性認知症のソールと、過去のトラウマに囚われ続けるシルヴィアの関わりを描いています。

思いのほか、シルヴィアの方のストーリーの方に比重があるんですよ。

というのも、本作は「記憶」にフォーカスした物語なんですね。原題も『Memory』です。

シルヴィアはティーンエイジャーの頃に性暴力の被害にあったことをトラウマとして抱えており、初めはソールもその加害者一味なのではないかと訝しんでいたんです。

でも、それはどうやら誤解だったと。

そして、最後の最後に、シルヴィアは実の父親からも性的虐待を受けていたことをジェシカ・ハーパー演じる母親に告白するんです。

しかし、母親はそれを受け入れることはできない。でも彼女は彼女で、シルヴィアが変なことを言っていると本気で思っているようにも見えるんですよ。

つまり、人によって、記憶ってあいまいになってしまったり、違ったりしてしまうものなんだなと。そういうことを伝えたかったのではないかと思うんです。

立場によって認めたくない事とか、受け入れがたいことがあるから、フィルターがかかる。誰かに伝えることで、言霊のように自分の記憶として刷り込まれていく。揺れに揺れながら形成されていく。

でも、この『あの歌を憶えている』の中で、決して揺るがないものがあるんです。

それが、人を好きになるという気持ちです。

ソールは、昔の記憶は覚えていても、短期的な記憶はできないんですよ。

1分前の出来事を思い出せないから、映画の内容も覚えられない。映画好きとしては、とっても悲しい病気ですよね。これ、小説とかも全然楽しめないと思うんですよ…。

でも、彼は、シルヴィアと一緒に映画を観るんです。好きな誰かの隣で一緒に映画を観ることは楽しいから。

若年性認知症で、記憶に関しては致命的なハンディを背負う彼。それでも人を好きなる気持ちは変わらない。

反して健常な人々は、過去に囚われて、その結果仲たがいを続け、人生を楽しむことができない。

紛れないのは、目の前の人を愛しく思う気持ちだけ。

今日の映学

最後までお読みいただきありがとうございます。

『あの歌を憶えている』についてお伝えしました。

　

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