それは、あまりにも厳しい、貴族への道。
スタンリー・キューブリック監督の歴史映画『バリー・リンドン』。
舞台は18世紀のアイルランド。
富と名声を求め、青年が成り上がっていく様をドラマチックに描いた傑作で、
アカデミー賞作品賞含めた7部門にノミネートされ、撮影、衣装デザイン、美術監督、編曲の4部門を受賞しています。
はえ~。すっごい。
今回の記事では、「バリー・リンドン」をより深く味わうための見どころをお伝えしていきます!
実はあの偉人を撮りたかった
『バリー・リンドン』の主人公バリーは、農民出身の若者です。
偉人ではありません。
ウィリアム・メイクピース・サッカレーによる小説『The Luck of Barry Lyndon』(1844年)を原作としており、実在しない架空の人物なんです。
同じようなジャンルの作品は2度と撮らないことで有名なキューブリック監督。
なぜ有名な偉人をテーマにしなかったのでしょうか。
当初キューブリック監督は、歴史物を撮るにあたって、そのテーマを皇帝ナポレオンにしようと考えていたのですが、
予算や権利の都合上ナポレオンをテーマにすることは叶わず、結局原作ありきの『バリー・リンドン』を作ることになったわけです。
しかし、ナポレオンを撮影するために準備した資料はそのまま『バリー・リンドン』に役立てることができ、細部までこだわった作品に仕上がっています。
衣装デザインなんて正にそうですよね。
そして、後日談として、このキューブリック監督が成し遂げられなかった偉人「ナポレオン」をテーマにした作品を、リドリー・スコットが敬意を込めて映像化したんですね~。
荘厳な音楽
『バリー・リンドン』は、アカデミー賞で編曲賞も受賞しています。
・ヴィヴァルディ:ホ短調チェロ協奏曲第3楽章
・ヘンデル:組曲第11番ニ短調HWV.437〔第2集第4番〕からサラバンド
・シューベルト:ピアノ三重奏曲第2番ホ長調D.929, Op.100から第2楽章
などなど、素晴らしい名曲の数々が、当時のヨーロッパの雰囲気にマッチしています。
オープニングからしてもう、荘厳な雰囲気が音楽によって演出され、『時計仕掛けのオレンジ』や『2001年宇宙の旅』、『シャイニング』などと同じ様に、
これからとんでもない映画が始まるのでは…。
と感じずにはいられません。
圧巻のカメラワーク
撮影賞を受賞したそのカメラワークも圧巻ですので詳しく解説していこうと思います。
ズームアウト、ズームイン
本作では、ズームインとズームアウトが頻繁に使用されます。かなり多いです。
徐々に人物から、ズームアウトしていくことで、部屋や景色も合わさったショットとなり、まるで絵画のようなショットに変わっていくんです。
特に私が好きなのはレディ・リンドンの入浴シーン。
冷たい表情も相まって、ゾッとするほど美しいです。
ズームインしていく様もまた素晴らしく、表情が明らかになることで、煌びやかな貴族の世界に潜んだ、人々の心境がよく伝わってきます。
キューブリック監督といえばな、シンメトリー
キューブリック監督といえばシンメントリーなショットが象徴的です。
『シャイニング』や『2001年宇宙の旅』では、惚れ惚れような左右対称なショットがたくさんありましたよね。
『バリー・リンドン』でもそれは健在。
部屋やセットの美しさを、細かに魅せる作品になっているので、もしかしたら彼の作品の中で、最もシンメントリーなショットが多い作品かもしれませんね。上映時間も長いですし。
屋敷の外観、部屋に立つバリーのショットなど、明かに景色で見せようとしているなと感じる時のシンメトリーが、非常に美しいです。
ロウソクの灯を使った効果
本作は18世紀の欧州が舞台。
そのため、当時の人々は、ロウソクの灯を頼りに夜の間生活していました。
キューブリック監督は、それをそのまま再現するだけでなく、視覚効果として使用し、作品を昇華させています。
薄暗くも、温かみのあるロウソクの光だけで撮影した場面が、いくつか観られるのです。
これがまた美しいんですよ。
ぜひ、意識して観てみてください。
衣装・メイクへの異常なこだわり
本作は、アカデミー賞にて、衣装デザイン賞も受賞しています。
何事にも妥協を許さないキューブリック監督がこだわりぬいた18世紀ヨーロッパの衣装。
かなり当時そのままになってます。
ファッションの歴史の勉強になるレベル。
なんせ、キューブリック監督ですから。そこに妥協はないはずです。
また、貴族独特の白塗りやホクロのメイクなど(バカ殿風)などのメーキャップも、とても面白いですよ。
ブライアンvsダニー
『バリー・リンドン』には、『シャイニング』のダニーのライバルになりうる、可愛い子役が登場します。
キューブリック監督作品における名子役の座を争うライバルだ…!
バリーの実子、ブライアンです。
可愛いお顔です。
セリフや話し方もとてもキュート。
“Yes,Papa”が可愛すぎる。
しかし、可愛ければ可愛いほど、情動が大きくなります。
この子は、不慮の事故により幼くして命を落としてしまうのですが、この葬儀のシーンがたまらないんですよ。
誕生日パーティーの時に、笑顔で乗っていた羊の馬車に棺桶が揺られるのです。
これはかなりきます。私、泣いちゃいました。
このシーンがあるからこそ、『バリー・リンドン』が最も泣けるキューブリック映画であると言いたい。
今日の映学
最後までお読みいただきありがとうございます!
『バリー・リンドン』の見どころを紹介しました。
絵画のような美しさや、キューブリックのこだわりを感じつつ、18世紀の文化を知ることまでできる傑作です。
そして、きっと泣いちゃう。
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