5台のタクシーから生まれる、5つの物語
映画『ナイト・オン・ザ・プラネット』を鑑賞しました。
ジム・ジャームッシュの代表作ですね。
2024年4月26日から1週間限定で、シネマートでは、「ジム・ジャームッシュ特集2024」を開催しています。
その中の作品の一つがこちら。
『ナイト・オン・ザ・プラネット』に関しては、これまで自宅で鑑賞したことはあったんですが、映画館で観るのは初めてでした。
映画館で観た感想や、改めて観て気づいた事をお伝えしていきます!
あらすじはこちらです👇
ロサンゼルス、ニューヨーク、パリ、ローマ、ヘルシンキの5つの都市で同時刻に走るタクシーで起きる物語をオムニバスで描く、ジム・ジャームッシュ監督作品。大物エージェントを乗せる若い運転手、英語の通じない運転手、盲目の女性客と口論する運転手、神父相手に話し出したら止まらない運転手、酔っ払い客に翻弄される運転手。地球という同じ星の、同じ夜空の下で繰り広げられる、それぞれ異なるストーリーを描く。
https://www.cinemart.co.jp/theater/shinsaibashi/movie/002012.html
あなたはどれが好き?
『ナイト・オン・ザ・プラネット』は、完全なオムニバス構成の作品で、それぞれの物語に一切の繋がりはありません。
初めは、LA。若い女の子ドライバーと、映画のキャスティングをする女性。出演はウィノナ・ライダーとジーナ・ローランズ。
2つ目は、NY。東ドイツから来たおじさんドライバーと、黒人の若者とその義妹。出演はアーミン・ミューラー=スタールとジャンカルロ・エスポジー、ロージー・ペレス。
3つ目は、パリ。若い黒人ドライバーと、盲目の女性。出演はイザック・ド・バンコレとベアトリス・ダル。
4つ目は、ローマ。陽気でおしゃべりな男性ドライバーと神父。出演はロベルト・ベニーニとパオロ・ボナチェリ。
最後は、ヘルシンキ。寡黙なドライバーと、酔っ払い3人組。出演はマッティ・ペロンパーとカリ・ヴァーナネン、サカリ・クオスマネン、トミ・サルミ。
それぞれ、登場人物の個性が爆発しているので、甲乙つけがたいですね。
そして、すべての話にオチのようなものがあるので、なんだか本当に落語を聞いたような気分になるんですよ。
LA編
LA編、一番人気があるんじゃないでしょうかね。
私もどれか一番を選べと言われたらこれを選びます。
一番の魅力は、何といってもウィノナ・ライダー。
あんなに小さくてカワイイタクシードライバーがこれまでの映画で登場したことがありますでしょうか。
年代的には『シザーハンズ』よりも、少し後の出演ですね。
物語としてもよくできていると思います。
貧しいタクシードライバーとリッチな映画関係者。この二人をまず電話のシーンで比較させる。そしてエンカウントさせると。
観ていて気持ちのよい瞬間です。これからどうなるんだろう。そんな予感。
整備士になるという夢を持つコーキー。
コーキーの魅力に気づいたヴィクトリアは、最後に彼女をスカウトするんですね。
しかし、コーキーは断ってしまうと。自分には自分の暮らしがあるからと。
映画スターになるチャンスをみすみす逃すなんて…!でもそういう人生もいいよね。
そんな落語的な下げになっています。
日本映画『ちょっと思い出しただけ』では、伊藤沙莉さんがタクシードライバー役なんですが、このウィノナ・ライダーを意識したカットがたくさん登場するので面白いですよ。
NY編
NY編は、ヨーヨーの優しさがいいですよね。
乱暴な言葉や振舞を見せる彼ですが、根っこはとても優しさに溢れている。
そこにヘルムートの可愛げが見事に合わさります。
この物語は普通に人情噺としていいなと思うんですが、ラストや序盤でニューヨークという町のいやらしさというか切なさというものをみせます。
はじめ、ヨーヨーはタクシーを捕まえられませんよね。ようやく止まっても乗車を拒否される。
あれ、黒人差別を意味しているんですよ。黒人と二人きりになるのは危険だからタクシーに乗せるのはご法度だぜ。という当時のニューヨークの常識なわけですね。
しかし、東ドイツから来たばかりでそんな常識や偏見に囚われていない、無垢なヘルムート。
かれの純真さに答えるかたちで、自分で運転することをいとわないヨーヨー。
そんなハートフルなお話なんですね。でも、ラストでヘルムートは、ニューヨークの街の喧騒や危なっかしさに気づいてしまう…。
そういったラストになっています。
パリ編
パリ編も、人種差別的なメッセージが少しこもっています。
初めに乗せた大使館関係者の鬱陶しさったらもう、お見事です笑
肌で差別されることにイラつく主人公の黒人ドライバー。
そんな彼が盲目の女性を乗せると。
自分なりに疑問に思うことを、少し嫌みったらしく彼女に尋ねるんですが、すべて飄々と答えられる。
この物語は名言が多いように思います。
「見たことないから、分からないわ」
「肌の色なんて、私には関係ない」
などなど。
ラストで目の見えない彼女に「気をつけてな」というドライバーの方が、事故ってしまうというのも、非常に落語っぽくていいです。
あと、盲目の女性を演じたベアトリス・ダルの白目がお見事。
ローマ編
ローマ編はもう、コメディですね!
これまでの作品と違って、ゲラゲラ笑いながら観るべきな物語。
ロベルト・ベニーニのキャラクターがとにかく面白い。
かぼちゃや羊や義姉と××したことを神父に懺悔するという内容です。
ラストもコメディすぎます笑 少し残酷さすら感じる下げ。 チャップリンのような喜劇っぽい雰囲気を味わえますね。
ロベルト・ベニーニはこの後『コーヒー&シガレッツ』でもジャームッシュ作品に出演します。
代表作は『ライフ・イズ・ビューティフル』で、こちらは少し悲しいドラマ作品。陽気なお父さんを演じています。
勝手に、このタクシードライバーの後日談と妄想するとより一層味わい深くなるかも。
ヘルシンキ編
ヘルシンキ編は最もドラマチックなんじゃないかなと思います。
意外性とか、悲しい雰囲気とか、落語っぽさも一番強いかも。
会社をクビになった上に、買った新車が壊されて、その上16歳の娘が妊娠、あげくの果てには妻から離婚を切り出されたという、最悪の1日を過ごしたアキという乗客とその友人2人。
マッティ・ペロンパー演じるドライバーは、「なんだそんなこと。俺に比べたら…」という調子で、自分の身の上を語りだすというストーリー。
すごく可哀想ですが、すごくいい話です。
アキ・カウリスマキ作品の常連、マッティ・ペロンパーが出演しているというだけでも嬉しいんですが、これを最後にもってくるというのが、とんでもなく粋だなと思います。
今日の映学
最後までお読みいただきありがとうございます!
映画『ナイト・オン・ザ・プラネット』の感想や見どころをお伝えしました。
どの話も落語っぽくてたまらないです。
あなたはどの話が好き?
コメント