映画「ミツバチのささやき」を鑑賞しました。
今回私は東宝のリバイバル上映、午前十時の映画祭で観てきたのですが、午前十時の映画祭では、1か月で2本、コンセプトを決めて作品を選んでいるんです。
今回のコンセプトは『少女に何が起こったか?』というもので、抱き合わせとなったもう1本の映画は「エクソシスト」。
ホラー大好きな私は「エクソシスト」を午前十時の映画祭のラインナップが決まった瞬間から、観る気満々だったので、その前に上映される「ミツバチのささやき」も見逃せないなということで鑑賞してきました。
果たして強烈なホラー映画である「エクソシスト」と対をなす、名作なのでしょうか?
どんな映画なの?怖いの?
結論から言うと、ホラーじゃない。
でももの凄く画期的で切実な映画なんだ。
レビューしていきたいと思います。
作品について
作品概要:
スペインの名匠ビクトル・エリセの長編デビュー作。映画『フランケンシュタイン』(1931)の怪物に魅せられた少女の心を繊細に描いた名篇。少女を演じたアナ・トレントは撮影当時まだ5才だったが、その可愛らしさと自然な演技は驚異的。日本では長らく知られざる作品だったが、本国公開から12年後の1985年に初公開され、高い評価を得た。
STORY:
1940年、内戦終結後のスペイン。小さな村に映画の巡回上映がやって来た。6才の少女アナ(アナ・トレント)は、姉のイザベルと一緒に『フランケンシュタイン』を観て、すっかり心奪われてしまう。アナは、姉からフランケンシュタインは怪物ではなく精霊で、村はずれの一軒家に隠れていると聞かされる。ある夜、村の郊外で脱走兵らしき男が列車から飛び降りると、荒野の中の小屋に逃げ込んだ。翌日、小屋にやってきたアナはその男と出会いーー。
午前十時の映画祭より引用
概要やあらすじを観ると、可愛い少女の健気なお話だと思っちゃいますね。
でも、この映画は、一味違うんです。
そもそも、あらすじに出てくる脱走兵のシーンは終盤の10分程度の時間でしかありません。
では家族劇がメインなのかというと、そうでもない。
家族全員が映るシーンは、ないんです。
実は、この「ミツバチのささやき」はたくさんのメッセージを隠しながら、公開されたんですよ。
どんなメッセージなんだろう?
ズバリ言うと、抵抗の証だね。
公開時のスペイン
本作が公開されたのは、1973年です。
この頃のスペインはフランコ将軍による、独裁国家でした。
映画に出てくる小学校にも、彼の写真が飾られています。
フランコ政権によって、あらゆる文化や芸術は、統制されていて、少しでも反逆の要素を含んでいたら、命を奪われる危険があったそうです。
だから、ストレートに批判するのではなく、メッセージを隠して公開する必要があったんですね。
海外では少女の空想のおとぎ話のような話としてヒットしたわけですが、実情を知るスペインの人々にとっては、この映画は共感や抵抗の証として勇気を与えたんです。
映画公開時の1973年はまだフランコ政権が独裁していたのですが、1975年にフランコ将軍が逝去します。
その後、文化統制も緩和され、「ミツバチのささやき」を作ったスタッフたちが、この映画に秘めたメッセージを語り始めたのです。
ここからは、映画に秘められた抵抗の証であるメッセージを、紹介します。
家族に秘めたメッセージ
本作は4人家族の物語です。
養蜂家の父
フランスに手紙を送る母
小学生の姉(イサベル)
小学生の妹(アナ)
といった構成。
これが、それぞれに、フランコ政権によって影響を受けてしまった、スペインの人々を表しているんです。
父 負けた人々
父親が表しているのは、フランコ政権に負けてしまった人々です。
彼は、養蜂の傍ら、何か執筆のような活動もしているんですね。
加えて、フランコ政権と闘った哲学者ウナムーノとのツーショット写真も飾っています。
一見、ミツバチの行動を記録しているように見せているんですが、
そこに、「死ぬまで黙って働く」と書き、消すシーンがあるんです。
もし、こんなことを言おうものなら、自身や家族の命が危うい。
言論の自由を奪われて、なくなく隠居するしかない。
そんな当時のスペインの人々を表しているのです。
母 順応できない人
母は、フランスに向けて毎日のように手紙を書いているキャラクターでした。
もちろんこの内容は、反フランコ政権に対する手紙なのです。
当時のスペインにおいて、フランコ政権に順応できない人々を表しているんですね。
姉 慣れてしまった世代
姉、イサベルは、妹アナに比べて活発というか、いたずらっ子で、暴力的な行動を見せる女の子でした。
ネコの首を絞めたり、死んだふりをしたり、焚火を飛び越えたりします。
これは、フランコ政権の影響で、暴力的なことに慣れてしまったしまった世代。
フランコ政権に順応してしまった若者を描いているんですね。
妹 新しい道を…
そして、妹のアナは、姉のように焚火を飛ぶことはできないんです。
自分は自分らしく。正しいと思った行動を選びます。
適応はせず、あくまで自分らしく、新しい道を歩んでいく。
ラストのセリフ「私はアナ」にそういったメッセージを込めて、スペインの人々に感動と勇気を与えたのです。
タイトルに秘めたメッセージ
本作の英題は「The Spirit of the Beehive」
ハチの巣の魂です。
邦題とは違いますね。
スペインではハチミツが有名なんです。
ハチの巣=スペインという意味がこもっています。
つまり、スペイン国民の魂といった意味のタイトルなんですね。
家族を当時のスペインの人々に置き換えている点、家の窓がハニカムになっている点からもそれがわかるかと思います。
兵士は何を表す?
アナがフランケンシュタインの怪物だと信じ込み、食べ物を与える兵士。
彼はフランコ政権と闘う、人民戦線の兵士なんです。
本作の脚本家は、実際に昔、人民戦線の兵士を匿っていたことがあり、その経験に基づいて書かれたのだそう。
アナがハチミツとパンを与えるシーンは「汚れなきいたずら」のオマージュ。
彼は髭で痩せぎすですよね。
人民戦線の兵士だけではなく、イエスキリストも重ねて作ったキャラクターなんです。
ちなみに、人民戦線側として、反フランコのメッセージを世界中に向けた作品がピカソの「ゲルニカ」。
あれは、スペイン市民戦争に介入したナチスドイツやイタリア軍が、スペイン・バスク地方にある村ゲルニカの無差別爆撃した出来事を主題とした作品なのです。
フランコが、ヒトラーにお願いして、自分の国を爆撃させたそうですよ。
信じられない行為ですよね…。
今日の映学
最後までお読みいただきありがとうございます!
「ミツバチのささやき」に秘められたメッセージについて解説しました。
今でも、こういったメッセージを秘めた映画は、作られています。
興味がある人はイランの映画をチェックしてみてください。
「友だちの家はどこ?」あたりがいいかも!
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