映画『私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?』を鑑賞しました。
フランスで実際にあった事件を基にした作品です。
イザベル・ユペールが、仏総合原子力企業アレバ(現オラノ)社のCFDT(フランス民主労働組合連盟)代表モーリーン・カーニーを演じる国家的スキャンダルを背景にした社会派サスペンス。
http://mk.onlyhearts.co.jp
会社とその未来、そして従業員の雇用を守るため、中国とのハイリスクな技術移転契約の内部告発者となったモーリーンが、自宅で襲われるという肉体的、精神的暴力と、それを自作自演だとする精神的暴力に対し、屈することなく6年間闘い続け、無罪を勝ち取るまでを描いた実話の映画化だ。
今回の記事では、映画をより深く味わうためのポイントをいくつか解説します。
事件の概要や、キャスト、フランスの実態について見え方が変わってきますよ。
最近あった実話
本作は「モーリーン・カーニー事件」を基に作られています。
「モーリーン・カーニー事件」とは、アレバ(核燃料製造会社)の組合員のサンディカリストが、組合員として会社と、フランスの利益を守るがゆえに、脅迫、暴行を受けていた事件です。
映画公式サイトに詳しく事件の概要が説明されていましたので、ここに掲載します。
1956年、アイルランドで産まれたモーリーン・カーニーは、労働組合主義の家庭で育つ。彼女の母親は、1990年にネルソン・マンデラが解放されるまで釈放を求める運動に参加。モーリーンも幼い頃からジャケットにマンデラのバッジをつけ、高校時代にはフェミニスト活動家となった。1983年、モーリーン・カーニーは夫ジルとともに渡仏。イヴリーヌ県オーファルジス村に家を構え、娘を出産後の1987年、コゲマ(後のアレバ)社の子会社SGN(Société Générale pour les Techniques Nouvelles)の、海外勤務をする技術者に英語を教える職を得る。
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ある日、技術者候補生が無報酬で解雇される事実に気づいたモーリーン・カーニーは、これに対応するためにCFDT(フランス民主労働組合連盟)に参加。2004年、アレバ社の欧州労働評議会の代表となった彼女はCFDTの依頼で、アレバの戦略をチェック。そのなかで、2011年、EDF(フランス電力)と中国国有企業CGNPC(中国総合原子力発電公司)との間で交わされようとしていた、機密性の高い技術をCGNPCへと移転させる提案書を入手する。技術と雇用機会の流出を懸念したモーリーン・カーニーは、従業員と会社の未来を守るため、これを内部告発。ロビー活動をする一方で、アレバに説明責任を果たすよう要求するが、CEOは契約書の存在を否定。逆に干渉をやめるよう勧告される。
以後、さまざまな形で脅迫が続く。2012年12月17日、ナイフで腹部に「A」と刻まれ、そのナイフの柄を膣に挿入され、椅子に縛り付けられたモーリーン・カーニーが自宅で発見される。しかし、この事件は「架空の犯罪」の疑いがあるとして捜査当局は彼女を拘留。取り調べによって精神的苦痛を受けた彼女は、促されるまま自作自演だと認めてしまう。
その直後、モーリーン・カーニーはこの自白を撤回。控訴するが、司法当局から無駄な捜査をさせた犯罪を告発した罪で、執行猶予5カ月、罰金5,000ユーロの判決を受ける。
うつ病を発症しながらも、2018年、新たな訴状を提出。CFDT労働組合員を味方につけ、世論を巻き込み、捜査上の数々の不備を指摘し、モーリーン・カーニーは“被害者であるという事実”を勝ち取る。
彼女は、「現実は映画よりもっとひどかった」と語っている。現在、女性に対する暴力と闘う団体で働く彼女から、暴力を受けた経験を持つ女性へのアドバイスは、「友情をあきらめないこと」。壊されたメンタルを癒すために、「愛情や優しさは重要で、それこそが真実にアクセスさせ、プライドを復活させることを可能にするものだ」と話している。「辛抱強く、決してあきらめなければ、最後にはそこにたどり着くことができる」という母親の教えを彼女は大切にしている。
ちなみにモーリーン・カーニーがフランスで最初に観た映画は、イザベル・ユペール主演、クロード・シャブロル監督の『ヴィオレット・ノジエール』(1978)だったとのこと。
何とも凄惨な事件ですね…。
しかもこの事件、監督曰く、そこまでフランスでは有名ではないそうです。
一石を投じるために映像化したジャン=ポール・サロメ監督や原作者のキャロライン・ミシェル=アギーレ、そして主演のイザベル・ユペールには頭が下がります。
日本でも労働組合は存在しますが、ここまで過激な事態にまで発展したことは聞いたことがありませんよね。
イザベル・ユペール
主演のモーリーン・カーニーを演じたイザベル・ユペールは何と70歳!
ちょっと信じられませんよね。お若く見えます。
1972年のデビューから、これまで数多くの映画に出演しています。
1988年の『主婦マリーがしたこと』という映画でも、ナチの政権下のフランス中絶したら死刑になるという法の下、ギロチンで死刑になった女性を演じています。
そういった闘う女性を演じ続ける女優がイザベル・ユペールなのです。
フランス警察
フランスの警察は、「人種差別と残虐性」を持っている人が少なからず存在します。
「フランス 警察 暴力」で調べれば、近年に発生した事件が数多くヒットします。
中でも、2023年にパリ郊外で、17歳の少年が車の停止命令に応じなかったとして交通検問中の警察官に銃で撃たれて死亡した事件。
警察への抗議活動は暴動となって放火などが相次ぎ、あわせて3000人以上が拘束される事態となりました。
これって実は、フランスの植民地支配の歴史と密接につながっているんです。
帝国主義の時代、フランスはイギリスなどと競い、中東やアフリカも侵略して、広大な植民地を支配しました。
なかでも、なかなか手放さなかったのがアルジェリア。
アルジェリアは8年に及ぶ激しい独立戦争を余儀なくされました。
しかし、独立後も、フランスと旧植民地の経済格差は深刻で、多くのアラブやアフリカの人たちがフランスに仕事を求めてやってきました。
死亡した17歳の少年もアルジェリア系でした。
「少年はアラブ系だから殺されたのではないか」という人種差別への怒りがあるのです。
こういった人種差別的な意識が、警官の中には根強く残っているのだそうです。
フランス原発
日本では東日本大震災の福島原発の影響で、ネガティブな印象の強い原発ですが、フランスではそうでもないようです。
なにせ、電力の7割を原子力発電に頼っているほど。
日本は火力発電が7割ほどで、原子力発電は6.9%です。
原発の恐ろしさを知る我々にとっては、この数値は悪いものではないように感じますが、世界のトレンド的にはあまり芳しくありません。
時代は今、再生可能エネルギーだからです。
火力発電は、主に石油・石炭・液化天然ガスを使用した発電方法なのです。
さらにここに、ロシア・ウクライナ問題も絡んできます。
フランスのマクロン大統領が今年2月10日に表明した2050年までに国内に少なくとも原子炉6基を新規建設し、6基とは別にさらに8基を建設する検討も始めると表明したことが、欧州連合(EU)のみならず、世界から注目が集まっている。
カーボンニュートラル(脱炭素化)を目指す世界各国が、想定外のウクライナ危機に襲われ、ロシア産の化石燃料脱却に動く中、エネルギー価格が急騰し、深刻なエネルギー危機に陥る状況が現実味を帯びているからだ。
世界でアメリカに次ぐ原子炉56基を保有するフランス。世界的に原発廃止の動きもある中、なぜ、原発増設に舵を切ったのか、国民はなぜ猛反対しないのか、その理由はフランス人らしい合理的思考とエネルギー主権にあることは間違いない。
同時にエネルギー危機にさらされる世界に対して原子力開発への投資には世界の原子力市場で優位に立つという戦略も見え隠れしている。
https://toyokeizai.net/articles/-/620280
ロシアは、天然ガスが強いんですよ…。
でも、いまやすやすと貿易できるような状況ではないと。
フランスは原発依存状況を現在の7割から5割まで引き下げると言っていますが、果たして可能なんでしょうかね…。
もちろん、反原発の人もたくさんいらっしゃるでしょうが、日本とは価値観の違いがありそうですね。
映画ではモーリーン・カーニーの娘だけが批判的な意見を言っていましたが、日本とはそもそもの価値観とか依存度が違う点をインプットしておくよさそうです。
襲われるシーンは出てこない
この映画の構造として非常に面白いのが、観客自身も、モーリーン・カーニーをジャッジするようになっている点です。
なぜなら、襲われたシーンがはっきり映らないから。
「もしかしたら、彼女の狂言なのか?」
「いや、でも…」
と心を揺さぶられます。
映画のラストシーン、最後の目線とセリフも、観客への問いかけになっています。
今日の映学
最後までお読みいただきありがとうございます!
映画『私はモーリーン・カーニー』の見どころや解説をお届けしました。
フランスの原発や警察の現状を知ると、また見え方が変わってきますね。
イザベル・ユペールの経歴や年齢にも注目だよ!
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