半端な「優しさ」では足りない。
圧倒的な「厳しさ」と「悔しさ」で、本物を育てる。
映画「セッション」
2014年のアメリカ映画で、監督は『ラ・ラ・ランド』『バビロン』のデイミアン・チャゼル。
私の大好きな監督です!
公開10年を記念したリバイバル上映を鑑賞してきました。
ジャズの名門学院で、ドラマーとして大成することを目指す青年と、鬼教師が織りなす、心がヒリヒリするような「大胆」で「危険」で「熱すぎる」ドラマです。
私は3度目の鑑賞なのですが、初めて観た時は J・K・シモンズ演じるテレンス・フレッチャーが怖すぎて、やや憂鬱な気分になりましたが、2度目は、むしろ感動したし、スカッとした印象を受けました。
そして今回、映画館で観た3度目は、ラストシーンで悶絶するくらい感動しました。なんですかあの緊張感と高揚感は…。チャゼルの十八番である高速パンも堪らなくゾクゾクします。没頭してしまいました。
正直、1度目は私の映画偏差値が低い上に、フレッチャーの真の思いや映画のバックヤードを掴み切ることができなかったから感動できなかったんだと思うんです。
いやいや、あの先生怖すぎるよ…。
でもそれにはね、理由があるんだ。
今回の記事では、「セッション」の感動が倍増する注目ポイントを解説していきます。
STORY
名門音楽大学に入学したニーマン(マイルズ・テラー)はフレッチャー(J・K・シモンズ)のバンドにスカウトされる。
公式サイトより引用
ここで成功すれば偉大な音楽家になるという野心は叶ったも同然。
だが、待ち受けていたのは、天才を生み出すことに取りつかれたフレッチャーの常人には理解できない〈完璧〉を求める狂気のレッスンだった。浴びせられる罵声、仕掛けられる罠…。ニーマンの精神はじりじりと追い詰められていく。
恋人、家族、人生さえも投げ打ち、フレッチャーが目指す極みへと這い上がろうともがくニーマン。しかし…。
それではここから「セッション」を深く味わうための解説をお伝えしていきます!
デイミアン・チャゼルの初期作
今作はデイミアン・チャゼル監督の初期作です。
今でこそ、『ラ・ラ・ランド』で超有名な監督ですが、この映画公開時は、まだまだ駆け出し。
『セッション』は学生時代に撮った作品を含めて2本目の作品となります。
出資者が中々集まらず、制作は難航したのだとか。
『セッション』のコンセプトを基にしたショートフィルムを2013年1月に開催された第29回サンダンス映画祭に出品。その結果、フィクション短編部門の最優秀賞を獲得し、完全版までこじつけたという道のりでした。
努力は実を結び、アカデミー賞3冠に輝き、第30回サンダンス映画祭でもグランプリを受賞しました。
アカデミー賞は作品賞はノミネートのみでしたが、助演男優賞(J・K・シモンズ)、録音賞、編集賞の3部門を獲得しています。
デビュー2本目でアカデミー賞を3つも獲るなんて、ものすごい偉業ですよね。
デイミアン・チャゼル監督は、ジャズをテーマにすることが多いです。
『ラ・ラ・ランド』もそうでしたし、『バビロン』もそうでした。
なぜここまでジャズにこだわるかというと、監督自身が高校生までジャズのドラマーをしていたことが理由です。
監督の中で、ジャズというものは、音と音をぶつけ合い、競争的に発展しながら、素晴らしいパフォーマンスを生むと考えているようです。
スポーツの感覚に近いですね。名勝負は一人では生まれない、といったものでしょうか。
また、『セッション』の中で、ドラマーやその他の楽器で、第一奏者がいて、その後ろに第二奏者、第三奏者が虎視眈々とその座を狙っているような描かれ方をしています。
スポーツの代表選手もきっと、こんな感じなんでしょう。
『ラ・ラ・ランド』ではバンド仲間同士で方向性の違いのようなぶつかり合いを描いていましたが、セッションでは師匠と弟子の関係でそれを描きました。
『ラ・ラ・ランド』は、ジャズよりも恋愛や芸能の世界に比重を置いていたので、そこまで厳しいものではありませんでしたが、『セッション』はジャズに全振りしています。
だからもう、密度が違います。
特に、クライマックスの殴り合いのような展開はたまりません。
鳥肌が立ちます。涙も出ます。
J・K・シモンズ
アカデミー賞、サンダンス映画祭をはじめとして、様々な映画祭で助演男優賞を受賞しました。
J・K・シモンズはこれまでわりと優しいお父さんのような役を演じることが多いのですが、今作のフレッチャーは本当に恐いです。
迫力がもの凄い。トラウマ級です笑
顔や青筋も恐いんですが、大きいスクリーンで観ると、半袖から覗く筋肉がまた恐い笑
2024年に公開予定の『レッド・ワン』という作品では、さらに鍛え上げられた筋肉を拝めるそうです。
これで67歳とは、恐ろしい…。
ちなみに、J・K・シモンズの父親は音楽教師だったらしいので、そのあたりも役に影響していそうですよね。
マイルズ・テラー
主演のマイルズ・テラー。
「トップガンマーヴェリック」で注目されている俳優ですね。
今作ではジャズドラマーを目指す青年を演じています。
マイルズは少年時代独学でドラムを学び、高校生のころはロックバンドに所属していました。
ロックドラマーとしての経験はあるものの、「セッション」で演じたのはジャズドラマー。
スティックの持ち方や叩き方が違うので、撮影のために1日3~4時間、2ヶ月に渡ってジャズドラムの猛特訓をしたそうです。
また、ドラムセットはチャゼル監督が買ってくれたものを使って練習したんですって。撮影3週間前からは監督からのレッスンも受けたのだとか。
ガチンコの演技
そんなマイルズ・テラーとJ・K・シモンズ、二人のガチンコ演技なくしてこの映画は語れません。
マイルズの手からは、本物の血飛沫が飛び、
フレッチャーはマイルズから本物のタックルを受け助骨を損傷、(大会のシーン)
また、フレッチャーはマイルズへ本物の平手打ちをかましています。(練習のシーン)
だからこそ、痛々しく、観る側の心もズキズキしてしまう訳です。
whiplash ムチ打ち
原題は「Session」ではなく、「whilash」です。
直訳するとムチ打ち。
教師から生徒への、ムチを打つような激しい指導。
キューブリックのフルメタルジャケットばりの鬼教官からの指導を、音楽学院で繰り広げる様はドキドキします。
どうしてフレッチャーがここまで厳しい指導をするのかというと、本物を生むには半端な優しさのある指導ではいけないという信念があるからなのです。
「GOOD JOB(グッジョブ)」という2つの単語は人を駄目にし、
「悔しさ」こそが人を強くする
チャーリー・パーカーもシンバルを投げられ、舞台上で笑われたことの「悔しさ」を糧に大成した。
という思いが詰まった故のいき過ぎた指導なのです。
確かに、必死で育てる気がないと、学生相手に夜中の2時まで練習に付き合わないですよね。
そういった思い。主人公に「悔しさの種」を蒔き続けたのだということ踏まえて、クライマックスの9分19秒まで行き着けば、この映画の感動はたまらないものになるはずです。
クライマックス9分19秒
クライマックスの9分19秒は手に汗握ります。
ぶつかり合った二人の集大成ともいえる、
殴り合いのようなセッション
感動しますよ…。
ちなみに、指揮と、ドラム演奏を映す高速パン。
高速パンは、後にデイミアン・チャゼル監督を象徴するカメラ手法となります。
感想
以前観たときは嫌悪や拒絶を感じましたが、「悔しさ」を糧に向こう側へゆける人間を育てるためのレッスンであると知って、感動と興奮が止まらない作品へと昇華できました。
苦手な作品から、大好きな作品へと変化しました。
映画って不思議です。
また、今回映画館の大スクリーンで観ると、ドラムの演奏シーン、特にラストシーンの興奮は凄まじい。映画館で唸り声を上げてしまったのは、『バビロン』以来。やっぱり私はデイミアン・チャゼルが大好きです。
早く新作でも高速パンが観たいなぁ。
今日の映学
最後までお読みいただきありがとうございます!
『セッション』の見どころをたっぷりお伝えしました♬
フレッチャーの想いや、監督・俳優のバックヤードを知れば、信じられない感動が押し寄せる傑作です!
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